『続 窓ぎわのトットちゃん』を読みました。
著者は黒柳徹子さん、発売は2023年、講談社から。

私は、どう考えても『窓ぎわのトットちゃん』よりおもしろいことは書けない、と思っていた。
私の人生でトモエ学園時代ほど、
毎日が楽しいことはなかったから。
だけど、私のようなものの「それから」を
知りたいと思ってくださる方が多いのなら、
書いてみようかなと、だんだん思うようになった。
よし! と思うまで、
なんと四十二年もかかってしまった。黒柳徹子(2023)『続 窓ぎわのトットちゃん』カバー袖 講談社
内容/あらすじとか
トットちゃんがトモエ学園を離れ、東北に疎開することになったところからのお話。
戦争で食べるものがなくなっていったこと。
空襲の激化で東京にいられなくなったこと。
ぎゅうぎゅう詰めの電車での過酷な移動。
青森での生活と母親の奮闘。
東京に戻ってからの学園生活。
NHK専属女優になってから現在に至るまで。
『続 窓ぎわのトットちゃん』の感想/レビュー
あっという間に読み終えてしまうくらい面白かったです。
ただ前作が持っていた、実話だけど空想のお話のような児童文学感は薄れ、よりエッセイらしい読み心地になっています。
そのため感覚としては戦中戦後の世相、生活、一少女のリアルな感覚を知ることができるという意味での面白さが強かったです。
読めば読むほど強く感じるのは、トットちゃんの持つ圧倒的なエネルギー。
驚くほどの強運、行動力、素直さ。
家族も含め、周りに集まるのはすごい人達ばかり。
そんな出会いの運をしっかり繋ぎ止めてしまえる背景に、トットちゃんがトモエ学園時代に培った「みんないっしょ」精神が垣間見えます。
個性や価値感を尊重しあい、誰もが「自分らしくいていいんだ」というメッセージは、トットちゃんの支えになっていたのだと思います。
中盤から後半にかけては時間の流れが一気に早くなり、忙しくも充実した日々が語られていきます。
その変化はトットちゃんの成長と同時に色んな人との別れでもあり、哀愁が漂っています。
それでもさらなる成長と変化を求めて新天地に旅立つところで話が終わるのは、希望を感じられるすばらしいラストだと思いました。
『続 窓ぎわのトットちゃん』のハイライト/付箋/印象に残った箇所
本さえあれば機嫌がよくなるトットを見て、パパとママは、『日本少国民文庫』という子ども向けの文学全集を買ってくれた。ぜんぶで十冊以上もあったけど、とりわけトットが大好きだったのが『世界名作選』という題名がついた巻だった。
この巻には、レフ・トルストイ、ロマン・ローラン、カレル・チャペック、マーク・トウェインといった作家の作品や、カルル・ブッセの詩やベンジャミン・フランクリンの自伝などが収録されていて、子ども向けというにはなかなか豪華な内容になっていた(黒柳 2023:34)
トットちゃんは幼い頃から読書家だったようです。
驚きなのは翻訳者を通して、世界的に有名な作家であるケストナーとも手紙のやり取りをしたということ。
なんでも行動、やってみるもんだなぁと。
娯楽が少なかったからと言ってしまえばそれまでだけど、将来のことを話していたのは、みんな心の中で「咲くはわが身のつとめなり」ということを気にしていたせいかもしれない。勉強はあまり好きではなかったトットも、「どうやったら自分を咲かせられるか」ということは、いつもぼんやりと考えていた(黒柳 2023:129)
幼い頃から夢をころころ変えていたトットちゃんですが、女学生時代には適正を踏まえての将来設計をしています。
紆余曲折ありながら前例のないテレビタレント、女優業という天職につけたのは、時代の運もあったと思います。
仕事にも仲間にもとても恵まれていたけど、正直、多少くたびれてもいた。心のどこかで、ぜんぜん違うなにかを吸収したがっていたのかもしれない。創造的で、つねに刺激を受けていないとダメな職業なのに、なんだかくり返しの多い、新鮮さのない毎日になっているような気もしていた。
汽車がずっと走ってきたレールから少し外れて、引きこみ線へ入るような時間を持ちたかった。引きこみ線にじっと止まっている汽車は、レールを走っている汽車からすると、置いてきぼりを食っているようにも見える。たしかにさびしかったり心細かったりもするだろうけど、急いで走っているときには気づかなかった景色も、きっと発見できるに違いない(黒柳 2023:245)
別れはさびしい。だけど新しい旅立ちには、心を踊らせてくれるなにかがある。
トットの胸の中から、忘れかけていた歌が聞こえてきた。おわかれは かなしいけれど
しゅっぱつは うれしいな
さよなら さよなら たくさんいって
げんきに げんきに しゅっぱつだそれは、『ヤン坊ニン坊トン坊』で三匹の白ザルたちが、一つの冒険を終えて次の旅に向かうとき、トットたち三人がいつもスタジオで歌っていた「出発のうた」だった(黒柳 2023:246-247)
トットちゃんの物語は、自身が出演していた番組のまっすぐで前向きな歌と共に出発するところで終わっています。
戦争の激化、極貧の疎開生活、慌ただしく過ぎていく日々と、亡くなっていく同時代の仲間たち。
読んでいて悲しくなったり寂しくなるようなシーンも多かったですが、このラストにすべて救われたような気がしました。
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