うっとりするような美しい絵とともに贈る、読む名作バレエ12選。
「シンデレラ」「白鳥の湖」「ねむれる森の美女」「ドン・キホーテ」
「コッペリア」「くるみわり人形」「火の鳥」「ジゼル」「オンディーヌ」
「ラ・シルフィード」「リーズの結婚」「ロミオとジュリエット」
心ときめくバレエの魔法の世界へ、あなたをごしょうたいします。スザンナ・D、ケイティ・D、ミーガン・C、サラ・C(2019)『12のバレエストーリー』(西本かおる 訳)裏表紙 小学館
今回紹介するのは『12のバレエストーリー』
スザンナ・デイヴィッドソン、ケイティ・デインズ、ミーガン・カリス、サラ・コートールドが書き直し、イボンヌ・ギルバート・ナノスが挿絵を担当。
2019年に西本かおるさんが翻訳しました。
読んで楽しむことはもちろん、実際のバレエを見たくもなる!
バレエで上演される有名な物語を大まかに知ることができる本。
『12のバレエストーリー』のあらすじ、内容
シンデレラ
おとぎ話の『シンデレラ』は、何百年も前から語り継がれてきた物語です。作曲家のプロコフィエフが1940年代に発表したこのバレエ作品は、17世紀にシャルル・ペローが書いた本をもとにしています。(西本 2019: 6)
母親のいないシンデレラは、継母と姉たちにいじめられていた。
そんなある日、お城で舞踏会が開かれることになったが、シンデレラは留守番を言いつけられてしまう。
すると、どこからともなく現れた仙女が魔法でドレスや馬車を用意してくれて、シンデレラはパーティに行けることになった。
舞踏会に来たシンデレラは、王子さまとダンスを踊り夢のような時間を過ごす。
しかし、気付けば夜の12時を告げる鐘の音が聞こえていた。
「真夜中の12時までには、かならず帰ってくるのですよ。魔法がとけてしまいますからね!」
仙女の言葉を思い出したシンデレラは、慌ててお城を飛び出していく。
あまりにも慌てていたので、片方のガラスの靴が脱げ落ちたことも忘れて…。
白鳥の湖
『白鳥の湖』は、ドイツとロシアの民話をもとにした、ジークフリート王子と白鳥の女王オデットの悲しい恋の物語です。音楽はロシアの作曲家チャイコフスキーの作で、1877年に初演されました。(西本 2019: 28)
王子ジークフリートは花嫁選びのパーティが開かれることに気乗りがしないでいた。
気晴らしに狩りをしている時、彼は美しい白鳥オデットに出会い一目惚れしてしまう。
彼女は悪魔ロットバルトによって白鳥に変えられていて、夜の間だけ人の姿に戻れるのだった。
呪いを解く方法は一つ、真実の愛を捧げられること。
そして花嫁選びのパーティ当日。
候補の中にオデットを見つけたジークフリートだったが、それは魔法で姿を変えたロットバルトの娘オディールだった。
ジークフリートは気づかぬままオディールに愛を誓ってしまい…。
ねむれる森の美女
『ねむれる森の美女』は古くから人びとに愛されてきたおとぎ話をもとにしたバレエで、1890年に初演されました。作曲家のチャイコフスキーは、たった40日間でこのバレエ音楽を書きあげたそうです。(西本 2019: 51)
とある国の王と王妃の間に女の子が生まれた。
女の子はオーロラ姫と名付けられ、6人の妖精が招かれ魔法の贈り物をしていった。
そこに招かれていなかった悪い妖精が現れ、「オーロラ姫は尖ったものが刺さって死ぬ」という呪いをかけていった。
すると、まだ贈り物をしていなかった魔法使いが「死ぬのではなく、深い眠りに落ちるだけ」と呪いを弱めてくれた。
王は国中の尖ったものを廃棄したが、オーロラ姫は16歳の誕生日に薔薇の棘が刺さって眠ってしまった。
呪いが伝播して国中の人たちも眠りに落ち、そうして100年の月日が流れた…。
ドン・キホーテ
『ドン・キホーテ』は、スペインの作家セルバンテスの小説をもとに作られ、1869年にロシアで初演されました。バレエの舞台では、物語の主人公のドン・キホーテではなく、若い恋人たち、キトリとバジリオが主役です。(西本 2019: 68)
騎士物語が大好きな老人ドン・キホーテは毎日夢うつつ。
騎士として冒険に出ることに憧れて、召使のサンチョと本当に旅に出てしまった。
たどり着いた街では、宿屋の娘キトリと恋人のバジリオが踊っていた。
キトリをお金持ちと結婚させたい父親は、バジリオを恋人として認めない。
父親から逃げ出す二人。
ドン・キホーテはキトリをドルネシア姫に見立て、逃げ出した二人を追いかけていく。
宿屋に戻って来た二人は、憤る父親に関係の解消を迫られた。
「キトリと別れるくらいなら死んだほうがマシだ」
そう言うと、バジリオは自分の胸に短刀を突き刺し倒れてしまう。
泣き崩れるキトリと困惑する父親。
するとドン・キホーテは父親にこう言った…。
コッペリア
バレエ『コッペリア』は、E.T.Aホフマン作の喜劇にもとづくストーリーです。ロマンティックな音楽は、レオ・ドリーブ作曲。19世紀に作られたバレエ作品の中でもとくに有名な作品です。(西本 2019: 88)
とある村の教会に新しい鐘が来ることを祝って、お祭りが開かれていた。
村娘のスワニルダは恋人のフランツと踊っている。
しかし、フランツはどこか上の空。
彼が眺めていたのは、発明家コッペリウスの家のバルコニー。
その視線は博士の娘・コッペリアへと注がれていた。
嫉妬にかられたスワニルダは夜遅く、コッペリウス家に侵入してコッペリアに会おうとする。
部屋の奥で本を読んでいるコッペリアに、スワニルダはこう尋ねた。
「あなたに話があるの。フランツのことなんだけど…」
くるみわり人形
チャイコフスキー作曲の美しい音楽に合わせて演じられる『くるみわり人形』。E.T.Aホフマン作の小説をベースにした、クリスマスの冒険の物語です。(西本 2019: 106)
シュタールバウム家はクリスマス・パーティの準備で大忙し。
続々と入ってくるお客さんの一人が、クララにくるみわり人形の兵隊をくれた。
パーティが終わり、ツリーの下で眠ってしまったクララが目を覚ますと真夜中の12時。
「ツリーが伸びているような、自分が縮んでいるような…」
そんな風に感じていると突然、暗がりからネズミの大群が現れた。
助けを求めるクララ。
すると、くるみわり人形とおもちゃの兵隊たちがネズミと戦いだした。
ネズミの大群をやっつけたくるみわり人形は、いつの間にかハンサムな王子へと変わっていた。
ネズミの魔法でくるみわり人形に変えられていた王子は、クララを不思議な世界に連れ出す。
ソリに乗って夜空を滑るように飛ぶ二人は、すべてがお菓子で出来ている魔法の国に着いて…。
火の鳥
ロシアの民話にもとづくバレエで、火の鳥と魔物が対決するドラマティックなストーリーです。ロシアの作曲家ストラヴィンスキーの音楽で、1910年にパリで初演されて大成功をおさめました。(西本 2019: 126)
王子イワンは狩りの途中で道に迷ってしまった。
遠くに古い建物を見つけて訪ねると、庭園の木には黄金のリンゴがなっていた。
イワンがリンゴに手を伸ばすと、美しい火の鳥が舞い降りてきてリンゴを守っている。
リンゴよりも火の鳥が欲しくなったイワンは、火の鳥を捕まえた。
しかし、火の鳥は黄金のリンゴを守らなければいけないと懇願。
代わりに自分の羽を一本渡し、「困った時に羽を振れば必ず助けにいく」と約束した。
イワンが森の中を進んでいくと、今度は古いお城を見つけた。
お城の庭では、月明りに照らされて13人の美しい王女たちが踊っていた。
その中の一人ワシリサに恋したイワンは、彼女たちが城主カスチェイに呪いをかけられて、夜の間しか外に出れないことを知る。
夜が明けて城の中に戻されていく王女たち。
カスチェイとその部下に囲まれたイワンは、火の鳥の羽を大きく振った。
すると、どこからともなく火の鳥が現れて上空を飛び回り始めた。
カスチェイたちは火の鳥の舞いに合わせて勝手に体が動いてしまい…。
ジゼル
ロマンティック・バレエの代表作といわれる『ジゼル』は、心に残る音楽と幻想的な舞台で知られています。1841年にパリで初演された、愛とうらぎりの悲しい物語です。(西本 2019: 142)
ドイツの山あいの小さな村で祭りが行われている。
公爵アルブレヒトはロイスという偽名を使って、村娘のジゼルと恋仲になっていた。
ジゼルのことが好きなヒラリオンと、ジゼルの母親は二人の仲を認めていなかった。
ひょんなことから、ヒラリオンはロイスの正体に気づく。
ヒラリオンがロイスの角笛を吹くと、たちまちお城の人たちが村に駆けつけて、ロイスがアルブレヒト公爵であることが皆に知られてしまった。
貧しい身なりをしているアルブレヒトを問い詰める、婚約者のバティルド姫。
事態が呑み込めずに不安そうに佇むジゼル。
追いつめられたアルブレヒトは、「これは単なる遊びだ」と言ってその場をやり過ごそうとする。
元々心臓の弱かったジゼルは、ショックのあまり倒れてしまった。
アルブレヒトはジゼルの横にひざまずき、身分を隠していたことを謝る。
「自分への愛も嘘だったの?」と問うジゼル。
「愛していたことは本当だったけど、自分には婚約者がいて…」としどろもどろなアルブレヒト。
ジゼルは「それでも、あなたを愛しているわ」と言って息を引き取った。
深い森の中に埋められたジゼル。
墓の横では森番のヒラリオンが嘆き悲しんでいた。
夜が来てヒラリオンは帰ろうとするが、道に迷い不気味な精霊たちに襲われてしまう。
同じ頃、アルブレヒトはジゼルに謝りたくて森の中へと足を踏み入れていた…。
オンディーヌ
『オンディーヌ』は、人間に恋をした水の精の悲しい物語です。たえず変化しつづける海のような音楽が印象的です。(西本 2019: 170)
町の広場の噴水に座っている貴族のパルモンは、婚約者ベルタのことを考えていた。
その時、噴水から水の精オンディーヌが現れた。
たちまちオンディーヌの虜となったパルモンは、彼女をダンスに誘ったり宝石をプレゼントした。
そうしてオンディーヌもまた、パルモンに惹かれていくのだった。
しかし、海の神は二人の恋を許さなかった。
パルモンと結婚すれば人の魂を手に入れられるが、パルモンが裏切れば自分は死ぬことになる。
オンディーヌはそれを承知でパルモンと結婚することを選んだ。
海の神はオンディーヌを取り戻すため、船に乗った二人に嵐をぶつける。
荒れ狂う海、船は沈没寸前。
オンディーヌはパルモンを助けるため、海へと身を投げた。
嵐が止んで助かったパルモンだが茫然自失となり、元の婚約者ベルタと結婚することになる。
二人が愛を誓いあっている時、ふと視線を感じて振り返ると、そこにはオンディーヌが立っていた…。
ラ・シルフィード
『ラ・シルフィード』は、愛と魔法のふしぎな物語です。1832年に振付師のフィリッポ・タリオーニが最初に振り付けをし、その娘のマリーが主役をおどりました。シルフィードは「空気の精」という意味です。(西本 2019: 188)
スコットランドの古い屋敷で、ジェイムズは居眠りをしていた。
夢の中にいるのは婚約者のエフィでなく、美しい空気の精シルフィード。
夢から覚めてもシルフィードはジェイムズの近くにいたので、ジェイムズは友人のグァーンを呼んだ。
ジェイムズはシルフィードの誘惑に耐えるが、とうとう彼女を追いかけて外に飛び出してしまう。
森の中では老女が焚火のそばで呪文を唱えていた。
「魔法のショール、ききめはたしか ジェイムズだまして だいなしにしろ」
シルフィードを追って森の中に来たジェイムズは、老女からショールを受け取った。
「シルフィードの肩にショールをかければ、シルフィードは永遠にお前のものだ」
その頃、ジェイムズを追いかけながら、グァーンはエフィに告白していた。
「きみはジェイムズと結婚する運命じゃなかったんだ。ぼくは、ジェイムズよりずっと深く、きみを愛している」
エフィがグァーンのプロポーズを受け入れていた頃、ジェイムズはとうとうシルフィードにショールをかけようとするが…。
リーズの結婚
初演は1789年といわれる古い作品ですが、今でも人気のあるコミカルなバレエ作品です。フランス語読みで『ラ・フィール・マル・ガルデ』ともよばれます。(西本 2019: 204)
農場の娘リーズは自宅の門にピンク色のリボンを結び付けた。
それは恋人コーラスに向けた愛の気持ちだった。
リーズは母親が眠っている隙に外に出て、コーラスと一緒にリボンを使って踊りを楽しんだ。
しかし、リーズにはアランという許嫁がいた。
アランはいつも赤い傘を持っている変わり者。
二人は顔合わせを兼ねて麦の実りの祭りに行くが、独特な性格のアランとはどうしても合わない。
「アランじゃなくて、コーラスと結婚できたらいいのに」
部屋の中で呟くリーズの元に現れたコーラス。
二人は意を決して逃げ出そうとするが、それより先に母親たちが帰ってきてしまう。
「お願い、母さん!コーラスとの結婚をみとめて!」
リーズな真剣な願いにより母親もついに根負け。
目の前で許嫁を取られてしまったアランは村に飛び出していき…。
ロミオとジュリエット
シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』は、不運な恋人たちの悲しい物語です。プロコフィエフ作曲のこのバレエ作品は、20世紀に生まれた、とても情熱的な作品です。(西本 2019: 222)
イタリアの町ヴェローナに、モンタギュー家とキャピュレット家という二つの名家があった。
モンタギュー家のロミオはキャピュレット家のロザラインのことが好きで、彼女に会うためにキャピュレット家の舞踏会にお忍び参加していた。
しかし、彼はそこで、美しい刺繍の入ったドレスを着たジュリエットに心奪われてしまう。
ジュリエットもまたロミオに惹かれていたが、踊っている最中にロミオの正体がバレてしまう。
幸いにもロミオは許されてその場は収まったが、ジュリエットは許されない恋に心を悩ませていた。
「ああ、ロミオ!ロミオ!どうしてあなたはモンタギュー家の人なの?」
バルコニーから庭を眺めると、そこにはなんとロミオが立っていた。
二人は愛を確かめ合い、月の下でダンスを踊った。
翌日、ロミオが舞踏会に参加したことを面白く思っていないキャピュレット家の人間が、ロミオに絡んできた。
ロミオを庇った友達は刺されてしまい、カッとなったロミオは思わず相手を刺してしまう。
罪を問われたロミオはヴェローナの町から追放されることとなった。
一方、ジュリエットはロミオのことが忘れられず、親の決めた結婚にも納得できないでいた。
このことを神父に相談すると、彼はこんな方法を教えてくれた。
まず家に帰って結婚を承諾する。
その後、42時間の間だけ仮死状態になれる薬を飲む。
誰もがジュリエットが死んだと思い込み、その体を墓場に運ぶ。
その間にロミオに使いを送って、ジュリエットを墓場に迎えにいくよう説明する。
42時間の眠りから覚めたら、ロミオと一緒にどこか遠くへ逃げる。
神父に教わった通り、薬を飲んだジュリエットは死んだように冷たくなった。
ジュリエットは墓場に安置され、あとはロミオを待つだけだった。
しかし、神父の出した使いよりも先に、町の噂でジュリエットが死んだと聞いてしまったロミオは、大急ぎで墓場へと向かっていたのだった…。
『12のバレエストーリー』の3つの見どころ
『12のバレエストーリー』の見どころは3つあります。
①装丁、イラストが綺麗
②定番の物語をまとめて読める
③バレエの演目としてのストーリーが分かる
順に説明していきましょう。
①装丁、イラストが綺麗
この本は、なんといってもまず表紙が綺麗です。
キラキラと輝く衣装や周囲を飛び交う白鳥、星月や植物に目を奪われます。
表紙の期待を裏切ることなく、本文中のイラストも贅沢にオールカラー。
ページをめくる手が止まってしまう箇所がたくさんありました。
また、登場人物の表情が描かれずシルエットになっていることも、幻想的なイメージの構築に一役買っていると思いました。
②定番の物語をまとめて読める
12個の物語はいずれも、名前くらいは聞いたことがあるかと思います。
しかし、大まかなストーリーしか知らなかったり、色んな物語とごっちゃになっていたり、名前しか知らないという人も多いのではないでしょうか。
実際に自分もそうでした。
「くるみわり人形」と「すずの兵隊」のストーリーを混同していたり、「火の鳥」を退治するものだと思っていたり、などです笑
③バレエの演目としてのストーリーが分かる
定番の物語を改めて読み直せるのがこの本の魅力ですが、バレエストーリーというコンセプトに沿った構成になっていることを忘れてはいけません。
従来の話と展開が違っていたり、やたらとダンスシーンが多いのは、バレエ演目のストーリーとして書かれているから。
原作 ⇒ バレエ演目化 ⇒ 物語化と、逆輸入の過程を辿っています。
読み物として楽しむことはもちろん、原作と読み比べて違いを探したり、バレエを見る前にストーリーを予習したり、興味関心の幅を広げられます。
『12のバレエストーリー』の感想
細部は違えど愛をテーマにした物語が多いという印象でした。
そのバリエーションは浮気、許されざる恋、誤解、裏切りなど、綺麗な世界観とストーリーに隠れがちですが、男のクズさが目に余る話も少なくありません。
身分が違おうと、種族が違おうと、呪いや魔法に阻まれようと、それが人間の本質で愛が辿ってきた歴史でもあるので、多くの人の共感を得られるのだと思いました。
こういった定番の物語をまとめたベスト盤のような本はたくさんありますが、共通のテーマに沿ってまとめられていると俄然興味を引かれますね。
カバーやイラストも綺麗なので、手元に置いておきたくなるような素晴らしい本でした。
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