世界一強い女の子ピッピのとびきりゆかいな物語。
となりの家に住むトミーとアンニカは、ごたごた荘でサルと一緒に自由気ままに暮らしているピッピがうらやましくてなりません。
ピッピの天真らんまんな活躍ぶりを描きます。リンドグレーン(1990)『長くつ下のピッピ』(大塚勇三)カバー袖 岩波書店
今回紹介するのは児童文学の名作として有名な『長くつ下のピッピ』。
1945年にスウェーデンの作家リンドグレーンによって書かれ、1964年に日本語訳が出版されました。
自由に楽しむ気持ちを大切にしたくなる!
大人になると誰もが忘れてしまう大切なことを思い出させてくれる本。
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『長くつ下のピッピ』のあらすじ、内容
ピッピは父親と一緒に船で世界中を旅している9歳の少女。
ある嵐の日、父親が波にさらわれたことをキッカケに、スウェーデンの小さな町の外れにある家「ごたごた荘」に引っ越してくるところから物語は始まります。
11個あるエピソードはそれぞれ独立していますが、どの話にも天真爛漫なピッピの姿が描かれています。
ごたごた荘の隣に住む兄妹のトミーとアンニカは、ピッピと意気投合。
木の上でコーヒーを飲んだり、屋根裏部屋を探検したり、楽しい時間を共にします。
お巡りさんや先生たち大人は、自由気ままなピッピに振り回されっぱなし。
時にはサーカス団員よりも目立って見せたり、火事のアパートから子どもを救出したり、良くも悪くもピッピから目が離せません。
自由奔放、豪放磊落(らいらく)、はたまた傍若無人か。
明るく元気でほら吹きで、気前がよくて本当は優しい。
ピッピを形容する言葉は枚挙にいとまがありません。
各エピソードにはピッピの長所・短所が程よく散りばめられていて、ピッピの魅力が分かりやすく伝わるバランスのいい構成になっています。
『長くつ下のピッピ』が伝えたい事は?感想や見どころ
「自由な視点で物事を楽しむことの大切さ」
自分は本作を読んだ後「ピッピのように自由な視点で物事を楽しみたい」と思いました。
常識や他人の目を気にせず素直な気持ちに従って行動する力は、誰もが子ども時代に持っていた能力。
ピッピはいつの間にか失くしていた童心を、あっさりと呼び起こしてくれます。
そんな『長くつ下のピッピ』の見どころは大きく分けて3つあります。
①ピッピという強烈なキャラクター
②読み手に応じて様々な印象を与えるピッピの行動
③「自由」の意味を考えさせられるエピソードが満載
この3点が本作の魅力であり、読者の童心を呼び起こすフックになっていると思いました。
①ピッピという強烈なキャラクター
・個性的なルックス
・怪力無双
・一人暮らし
・なぜかお金持ち
・猿や馬を飼っている
・自由気ままな性格
ピンと突き出した赤毛の2本のおさげ、両足には色の違う長くつ下と、足よりずっと大きな黒靴を履いている。
個性的なルックスに加えて、これでもかというくらい詰め込まれた設定。
怪力は馬や大人を楽々と抱え上げ、何に縛られることなく自由に生きる無敵の存在。
本作の魅力の大部分は、ピッピという強烈なキャラクターに支えられている、と言っても過言ではありません。
それゆえに、ピッピのことが好きになれるかどうかで、この作品の感想評価は大きく分かれるのではないでしょうか。
②読み手に応じて様々な印象を与えるピッピの行動
ピッピのキャラクターと生活は、子どもにとって共感と憧れの対象になりえます。
早起きする必要がない。
学校に行かなくていい。
朝からケーキだって食べられる。
力持ちで大人も怖くない。
ユーモアがあって楽しい遊びをたくさん思いつく。
自分が子どもの頃だったら、いや、今読んだってこんな生活は素直に羨ましいです。
ピッピのような友達が欲しいし、自分自身がピッピのようになりたいです。
そんなピッピへの共感と憧れは、作中のトミーとアンニカの視点でも随所に描かれています。
「ねぇ、アンニカ、ピッピがやってきてよかったとおもわない?」
「もちろん、おもうわ。」アンニカは、いいました。
「ピッピがくるまえは、なにしてあそんでたんだか、ぼく、それだっておもいだせないよ。」
リンドグレーン(1990)『長くつ下のピッピ』(大塚勇三)p66 岩波書店
一方でピッピのあまりの自由さに戸惑いを感じた人は、また違った印象を抱くと思います。
作中で言うならサーカスの団長やセッテルグレーン夫人など、いわゆる「しっかりした大人」の視点ですね。
空気の読めないピッピの行動を疎ましく思い、自由奔放さは協調性や常識がないだけに見えるかもしれません。
「実際に隣にいたらイライラさせられそう」、「お金と腕力で成立してるご都合主義の物語」と捉えられてもおかしくありません。
厳しい言い方をするなら、常識のない自由はただの好き勝手であって魅力ではない、と考えることもできます。
「でもね、ピッピ、どうして、あなたは、紙にかかないの?」
「紙なんて、もうとっくに、すっかりかいちゃったわ。でも、わたしの馬をそっくりかくには、あんな紙っきれじゃ、とてもたりやしないのよ。」
リンドグレーン(1990)『長くつ下のピッピ』(大塚勇三)p81 岩波書店
学校でお絵かきの時間に床に絵を描くピッピ。
作中でも賛否の分かれそうなシーンです。
しかし、ピッピの物語はあくまでフィクション。
せめて物語の中でくらい、ありきたりな現実やつまらない常識を全部ひっくりかえして欲しいと考えるのは僕だけではないと思います。
常識にとらわれないピッピの一挙手一投足が、友達をワクワクさせ大人たちを困らせる。
シンプルな構図ですが、そこにはカラッとした爽快感があります。
③「自由」の意味を考えさせられるエピソードが満載
ピッピは常識や大人に逆らっているわけではありません。
無知ゆえに型破りな行動に走ってしまったり、安易に周囲に迎合せず自分の頭で考えて判断を下しているだけです。
「ね、ピッピ、ぼくたちといっしょに、サーカスにいかない?」
「わたし、どこだって、いきたいところにいけるわ。」ピッピはいいました。
「でも、サカスには、いけるかどうか、わからないわ。だって、サカスってなんなんだか、わからないもの。それ、いたいもの?」リンドグレーン(1990)『長くつ下のピッピ』(大塚勇三)p132 岩波書店
知らないことは知らないと言い、学習もすれば反省もするし、たまに落ち込んだりもする。
ピッピは起こる出来事に対して、自分なりに考えて判断を下していきます。
そのズレが大きいほど面白いことになったり、大人を怒らせたり困らせたりすることもしばしば。
もちろん、それが楽しい方に向いたり素敵な話になることもあって、自由は自分で作り出せるものだと考えさせられます。
個人的にハッとさせられたのは、ピッピの誕生日パーティーでのシーンです。
「きょうは、わたしの誕生日よ。だから、わたしが、あんたたちにプレゼントをあげても、いいわけでしょ?それとも、そんなことしちゃいけないって、教科書にかいてある?竹さんのくつでやると、プレゼントができないことになるのかしら?」
「いいや、できるにきまってるよ。」と、トミーがいいました。
「ただ、ふつうは、あまりやらないけど。でも、ぼくだったら、プレゼントほしいな!」「わたしだって!」アンニカもいいました。
リンドグレーン(1990)『長くつ下のピッピ』(大塚勇三)p217 岩波書店
※「竹さんのくつ」とは「掛け算の九九」のこと。ピッピが聞き間違えた。
ピッピにかかればつまらないことは楽しくなり、楽しいことはもっと楽しくなるのです。
『長くつ下のピッピ』の感想まとめ
『長くつ下のピッピ』を読むことで、自由な視点で物事を楽しむ気持ちの大切さを再確認しました。
「自由に楽しむ」とは好き勝手に振る舞うということではなく、当たり前を見直す視点を持ち、どうすれば物事をもっと楽しくできるかを自分の頭で考えるということ。
自分は『長くつ下のピッピ』を図書館で借りて読みましたが、読み終える頃には自分の本棚に並べたい1冊になっていました。
ページを開けば、いつだって童心を呼び起こしてくれる本。
あれこれ考えずに楽しんで読むこともできれば、様々な解釈ができるという点でも、折に触れて読み返したい名作だと思いました。
あなたもピッピを読んで、忘れていた童心に目を向けてみませんか?
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