ピッピ 南の島へ|さよなら、少年少女時代!

ピッピ,南の島へ岩波少年文庫
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自由な生活を楽しんでいる世界一強い女の子ピッピが、こんどは友だちのトミーとアンニカ、なかよしの馬やサルも連れて、南太平洋のクレクレドット島に出かけます。子どもたちの南の島での大冒険を描く、ますます楽しい第3話。

リンドグレーン(2000)『ピッピ 南の島へ』(大塚勇三)裏表紙 岩波書店

今回紹介するのは『ピッピ 南の島へ』。

1948年にスウェーデンの作家リンドグレーンによって書かれ、1965年に大塚勇三によって翻訳されました。

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【どんな本?】
世界一つよい女の子ピッピの物語。『ピッピ 船にのる』の続編。

【こんな人にオススメ】
・自由な生活を送りたい人
・大人になりたくない人
・大人になりきれない人

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『ピッピ 南の島へ』のあらすじ、内容

ピッピはごたごた荘に住む世界一つよい女の子。

隣に住む兄妹のトミーアンニカと毎日楽しく過ごしています。

 

シリーズ最終巻となる今作では、大富豪がごたごた荘を買いにくるところから話が始まります。

ピッピの毎日は相も変わらず自由奔放。

セッテルグレーン夫人のお茶会に再び乱入し、謎の言葉「スプンク」を探して町中を歩き回り、学校ではクイズに挑戦。

トミーとアンニカが病気になった時は、毎日窓側に来て二人を楽しませました。

 

そんなある日のこと、南の島で王様をしている父親から手紙が届きます。

内容は、南の島「クレクレドット島」への招待状でした。

ピッピはトミーとアンニカを誘い、3人(+猿と馬)で南の島へと旅立ちます。

 

クレクレドット島でピッピはお姫様となり、大勢の子どもたちを率いて連日遊び倒します。

崖の下に集まる人食いザメをこらしめて、真珠を取りにきた大人たちを散々からかった後に追い払いました。

 

惜しみ惜しまれつつごたごた荘に帰って来た3人は、いつまでも大人になりたくないと話します。

明日や明後日の遊びを考えながら、トミーとアンニカは落ち着いた気持ちでベッドに入りました。

ピッピは一人でじっとロウソクの灯りを眺め、それからふっと火を消すのでした。

『ピッピ 南の島へ』で印象に残った箇所

『ピッピ 南の島へ』で印象に残った箇所は3つあります。

①セッテルグレーン夫人のピッピへの印象の変化
②アンニカの変化
③ピッピがまとう孤独の影

順に詳しく説明しましょう。

①セッテルグレーン夫人のピッピへの印象の変化

セテルグレーン夫人はいいました。「ピッピ・ナガクツシタは、いつもお行儀がいいとはいえませんでしょう。でも、あの子は、心のやさしい子ですわ。」(大塚 2000: 103)

セッテルグレーン夫人はトミーとアンニカの母親。

真面目なしっかり者で、初めてピッピに会った時には難色を示していました。

しかし、トミーとアンニカが南の島へ行く時には、あっさりとOKを出しています。

 

このシーンが印象に残ったのは、セッテルグレーン夫人のピッピへの印象の変化が唐突だったからです。

つまり、本編には描かれていなくても、ごたごた荘や街でのピッピを夫人は見ていたということ。

毎日のようにピッピと遊んでくるトミーとアンニカが、毎日のようにピッピのことを夫人に話していたであろうことが想像できます。

セッテルグレーン夫人の中でピッピは、安心してトミーとアンニカを任せられる存在になっていたのです。

②アンニカの変化

「わたしたち、いつでも、おもしろくいくわよ。このごたごた荘でも、クレクレドット島でも、どこでだってもね。」と、アンニカがいいました。(大塚 2000: 188-189)

まるでピッピのように話すのはアンニカ。

最初の頃のアンニカはおしとやかで物静か、どちらかと言えばピッピに楽しませてもらう受け身なキャラクターでした。

しかし、ここでのセリフは、ピッピと過ごす日々での彼女の変化を明確に表しています。

いつもはおしゃべりなピッピが黙ってうなずくだけ、というリアクションもいいですね。

キャラクターの成長と変化は物語の終わり、少年少女時代の終わりを示唆しているので、どこか寂しいシーンでもあります。

③ピッピがまとう孤独の影

ピッピは、手に頭をのせて、テーブルのわきにすわっていました。夢みるような目つきで、ピッピは、じぶんのまえでチラチラもえている、小さいろうそくをながめています……。

「ピッピは、……ピッピは、なんだかさびしそうにみえるわね。」と、アンニカはいいましたが、その声はすこしふるえていました。(大塚 2000: 198-199)

クリスマスパーティで大さわぎをした後、帰宅したトミーとアンニカは自室から、ごたごた荘の窓際に座るピッピを見つけます。

遊びまわって皆と別れた後、ピッピはいつもこんな風に一人で過ごしていたのでしょうか。

ピッピには父親がいて、友達がいて、みんなに慕われていますが、なぜか孤独の影がちらついています。

このシーンでは特にそれが際立っていたように感じました。

『ピッピ 南の島へ』の感想

①ごたごた荘でのエピソードも多い

「南の島へ」というからには、1巻まるまる南の島が舞台だと思っていました。

それは映画のような、スペシャルのような特別感があっていいのですが、自分はごたごた荘で起こる何でもない日々のエピソードが好きだったので、寂しい気もしていました。

しかし、読んでみると半分くらいはごたごた荘のエピソードで構成されていました。

自分と同じように、ごたごた荘や町に愛着のある人でも、安心して読むことができます。

②想像力の素敵さが限界突破

「ほら、いいこと?こうなのよ。七かける七は一〇二ってわけ。おもしろいでしょ?」

「一〇二なんかじゃないわ。」とアンニカがいいました。

「そうさ。七かける七は四十九だもの。」と、トミーがいました。

「わすれないでね。わたしたちは、いま、クレクレドット島にいるのよ。」ピッピはいいました。「ここの気候は、まるでちがってて、なんでもずっとよくそだつの、だから、七かける七だって、ずっと大きくなっちゃうのよ。」(大塚 2000: 124)

気取らずさらりと言ってますが、今作でのピッピの想像力と言い回しにはキレがありました。

微笑ましく読んでいると、急に出てくる鋭いナイフのような台詞にハッとさせられます。

「でも、かんがえてごらんよ。うちの中は、すごく寒いにきまってるよ。」と、トミーがいいました。「だって、ながいこと、火をたいてなかったんだもの。」

「なによ、そんなの。」ピッピはいいました。「心があったかくて、とんとんと脈をうってれば、こごえるなんてことはないわ。」(大塚 2000: 178-179)

はー、かっこいい!

こんなセリフ、一度は言ってみたいものです。

③自分に正直に生きるということは……

いつまでも楽しく自由に遊び続けることは、子どもの頃に誰もが夢見たことがあると思います。

しかし、子どもには帰る家があり、大人には忙しい日常があります。

結局のところ、誰もピッピのように生きることはできないのです。

ピッピがどこか寂しげな雰囲気をまとっているのは、良くも悪くもピッピが特別過ぎるからではないでしょうか。

それは、ピッピの持つエネルギーについていける人が誰もいない、と言い換えることもできます。

 

現実でも、誰かと一緒に何か始めても、それを好きな気持ちや熱中度にはどうしても差が出てきます。

つまり、究極の自由や自分らしさの追求は必ず孤独とセットになっているのです。

まとめ

ピッピ3部作、いずれも面白かったです。

南の島の夏休みは夢のように自由な生活で、見ているだけでワクワクしました。

ただ、後半にかけてのしんみりした雰囲気に、すべての印象を持っていかれました。

 

ごたごた荘の窓際でロウソクの火を眺めるピッピの心境は作中では語られていません。

アンニカたちの視点から「さびしそう…」とだけ語られています。

ピッピと目が合ったら手を振ってあげようよ!」とトミー。

しかし、ピッピはまっすぐに、ロウソクの火だけを見つめているのでした。

「まっすぐな道でさみしい」

種田山頭火

誰にも縛られず、まっすぐ自分らしく進むピッピに、大正昭和期を生きた俳人・種田山頭火の句が重なります。

山頭火は40歳を過ぎてから妻子を捨て、旅をしながら句を作る人生を選びました。

誰の人生とも重なることなく、自分だけの道を、自分だけの表現を求めた漂泊放浪の後半生。

それは究極の自由と言えますが、あまりにもまっすぐな道に、さみしさを感じることも多々あったのでしょう。

最後まで合わなかった視線は我が道を行く「ピッピの孤独」を、消されたロウソクの火は「少年少女時代の終わり」を表しているようでした。

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