よあけ【絵本】|静寂を楽しむ、夜明け前。

よあけ,絵本絵本
当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

山に囲まれた湖の畔、暗く静かな夜明け前。おじいさんと孫が眠っています。沈みかけた丸い月は湖面にうつり、そよ風の立てるさざ波にゆらめきます。やがて水面にもやが立ち、カエルのとびこむ音、鳥が鳴きかわす声が聞こえるようになると、おじいさんは孫を起こします。夜中から薄明、そして朝へ……。刻々と変わっていく夜明けのうつろいゆく風景を、やわらかな色調で描きだし、静かな高揚感をもたらしてくれる1冊です。

福音館書店|よあけ」より

今回紹介するのは絵本の『よあけ』。

ポーランドの作家であるユリー・シュルヴィッツさんによって描かれ、1977年に瀬田貞二せたていじさんが翻訳しました。

『よあけ』はどんな本?
忙しない日々に穏やかな静寂を与えられる!
湖畔で夜を明かす老人と孫の姿を描いた詩情あふれる絵本。

ユリー・シュルヴィッツの作品をAmazonで探す
ユリー・シュルヴィッツの作品を楽天で探す
瀬田貞二の作品をAmazonで探す
瀬田貞二の作品を楽天で探す

開催中のAmazonキャンペーン

【開催中のAmazonキャンペーン】
Kindle Unlimited
Audible
Amazon Music Unlimited

『よあけ』のあらすじ、内容

静かで美しい月の夜。

山に囲まれた湖畔で眠る老人と子ども。

月光が岩に照り、木の葉はキラキラと輝き、そよ風はさざ波となって、湖はもやに包まれています。

やがて動物たちが動き出し、少しずつ空が白んで、二人は湖へと船をこぎ出していきます。

『よあけ』の3つの見どころ

『よあけ』の見どころは3つあります。

①いつまでも浸っていたい魅力的な世界観
②詩情あふれる表現

③『よあけ』の元になった漢詩について

順に詳しく説明しましょう。

①いつまでも浸っていたい魅力的な世界観

この作品はページ数も文字数も少なく、絵に大きな動きがあるわけでもないので、読む人によっては退屈かもしれません。

しかし、夜の静けさが少しずつ動き出して朝へと向かっていく描写が、いつまでも浸っていたくなる魅力的な世界観を構築しています。

湖のほとりで夜を明かしたことがなくても、穏やかで静かな時間を過ごしたい人には強い共感を与えてくれることでしょう。

②詩情あふれる表現

『よあけ』は古い漢詩がベースになっている絵本です。

そのため、絵にも文章にも詩情が溢れているように感じました。

暗めの青と緑でぼやっと描かれたイラスト。

少ない言葉で淡々と描写される情景。

少しずつ音が増えていくけどまだ世界がまどろんでいる様子には、なんとも言えない趣があります。

蛙が飛び込む音がかえって静寂を強調するのは、松尾芭蕉が使っているテクニックと同じですね(古池や蛙飛びこむ水の音)。

作中では「夜が明けた」とは一言も書かれていませんが、夜明けだと分かる瞬間は大胆にはっきりと描かれています。

③『よあけ』の元になった漢詩について

『よあけ』の元になったのは、唐代の詩人・柳宗元りゅうそうげん(773-819年)の「漁翁ぎょおう」という漢詩です。

「漁翁」の原文や読み方、訳については、以下のページで分かりやすく解説されています。

漁翁 - 中国の漢詩 - 漢詩・詩歌・吟詠紹介 - [学ぶ] - 関西吟詩文化協会
詩吟の世界へようこそ。詩吟の試聴、漢詩の解説等おこなっています!関西吟詩文化協会は全国各地で詩吟教室(稽古場)を開き、詩吟文化の発展に貢献しています。

元になった漢詩を読むことで、『よあけ』に漂っている東洋的な雰囲気にも納得がいきます。

また両者の違いを比較しながら読んでも面白いし、漢詩の楽しみ方を知るうえでも『よあけ』は役に立つと思いました。

『よあけ』の感想

中学校時代、大晦日に友達と初日の出を見に行きました。

場所は地平線まで見渡せる海でも、街を一望できる山でもなく、バイパス道路を挟んだ小高い丘の上。

白い息を吐きながら坂道を上り、まだ暗い丘から遠くの空を眺める静かな時間。

空が白んでくるにつれて、ちらほらと近隣住民らしき人達が登ってきて、一定の距離を保ちながら手をこすり合わせています。

やがてオレンジがかった明るい光が遠くの山から顔を出して、そこらからワッという声が上がりました。

帰る途中、今は潰れてしまったミニストップに寄って、友達は朝ごはんを食べていました。

友達と何を話したかは覚えていませんが、あの日の何とも言えない空気感はよく覚えています。

 

『よあけ』を読むと、記憶の中にちらほらと残っている自分だけの「よあけ」が思い出されます。

状況や景色が異なっていたとしても、本書で感じる静寂感は誰しもがどこかで経験したことのあるものではないでしょうか。

夜明け前でも黄昏時でも、自然の中でも街の中でも、感情を動かされる瞬間があること。

作中で切り取られているのは、そんなどこかの誰かの個人的で具体的なワンシーン。

しかし、そこには普遍的な「静寂感」が宿っており、読む人に深い共感と郷愁、憧憬を感じさせます。

詩と絵本のすごさと面白さを改めて感じました。

 

柳宗元と近い時代を生きた李白りはく杜甫とほといった詩人たちの作品には、自然を詠ったものが数多くあります。

その良さや味わいは、機械的に読み流して意味を確認するだけでは恐らく分かりません。

静かなところで、ゆっくりと読み上げ、情景を想像することで、はじめて自分の中に共鳴する感覚があることに気づかされます。

それは、詩がDVDやCDプレーヤーのように、詩的な感覚を再生する装置として機能しているということです。

音楽が耳を楽しませ、映像が目を楽しませるなら、詩は感覚を楽しませるもの。

『よあけ』は読めば数分で終わる絵本ですが、僕にとっては数分で様々な感覚を呼び起こしてくれる絵本でもあります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました