【感想/レビュー】言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか

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言語の本質』を読みました。

著者は今井むつみさん、秋田喜美さん、発売は2023年、中央公論新社より。

日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペとアブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。

今井むつみ、秋田喜美(20023)『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』裏表紙カバー袖 中央公論新社

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内容/あらすじとか

認知科学、言語心理学、発達心理学を専門としている今井むつみ教授と、認知・心理言語学を専門としている秋田喜美准教授による共著。

 

認知科学には、身体的な経験に対応づけられていなければことばの意味を本当に理解したとは言えない、という「記号接地問題」があります。

たとえばイチゴが甘酸っぱくておいしいと知っていて、◯◯(実物を見たことも食べたこともない果物)も甘酸っぱくておいしいと教えられたら、「◯◯はいちご味」と考えてしまうかもしれません。

実物を見て触り食べてみるなどの身体的な経験を持たなければ、◯◯を真に理解したとは言えないのです。

 

『言語の本質』では、記号接地問題への答えを考えるうえでのヒントとして、オノマトペ(ワンワン、ゲラゲラ、ドーン、シーンなど擬音語、擬態語の総称、)に着目。

そこから発展して言語と身体の関わり、言語の起源と進化、子どもの言語習得などを考察した内容になっています。

『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか 』の感想/レビュー

「新書大賞2024」1位ということで手に取りました。

中公新書なだけあって内容は難しい!

難しい話ですが、面白い話でもありました。

 

「オノマトペとは何かという問いから筆者たちが始めた研究は、マトリョーシカのように、どんどん新たな問いを生んでいった。探求とは、より本質的な問いとの出会いである」(今井、秋田 2023:117-120)

問いが問いを呼び、失敗と修正を繰り返しながら答えに辿り着こうとする姿勢こそが、ヒトの持つ本質。

蓄えた知識をベースに推論を重ねていくことが言語習得と発展の手がかりで、筆者たちの研究がそのまま巨大なアブダクション(仮説形成)推論となっています。

ヒトは進化の過程で、誤りや失敗の可能性があったとしても、新たな知識を創出していくことを必要としたという部分に胸が熱くなりました。

『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか 』のハイライト/印象に残った箇所

子どもはオノマトペが大好きだ。オノマトペが感覚的でわかりやすいというだけでなく、場面全体をオノマトペ一つで換喩的に表すことができる、声の強弱や発話の速さ、リズムなどに感情を込めやすいなどの理由にもよる。(中略)これらを統合してまとめてみると、言語習得におけるオノマトペの役割は、子どもに言語の大局観を与えることと言えよう(今井、秋田 2023:117-120)

オノマトペの持つ「音と対象の類似性(しっくり感)」は、赤子でも同じように感じるそうです。

ことばの学習が始まったばかりの語彙量が少ないときは、アイコン性が高いオノマトペが学習を促進する。しかし語彙量が増えてくると、アイコン性が高いことばばかりでは、かえって学習効率は阻害される(今井、秋田 2023:149)

観察した対象や出来事を写し取ったオノマトペは、語彙量が増えるとかえってわかりにくくなるため、アイコン性が薄まってことばの意味と形が離れていったようです(言語にオノマトペ以外のことばの方が多い理由)。

 

既存の知識が新たな知識を生み、語彙の成長を加速させ、さらにことばを学習するときの手がかりとなるバイアス自体、つまり「学習の仕方」を洗練させていく。このポジティブな循環がブートストラッピング・サイクルである(今井、秋田 2023:197)

子どもは言語を学ぶにあたり、最初は身体感覚に接地しているオノマトペを足がかりとします。

そこから言語の持つ体系や仕組みを統計的に推論、適宜修正を繰り返していきます。

その時、子どもが使っているのが帰納推論、アブダクション(仮説形成)推論です。

これがどういう方法なのかは、ヘレン・ケラーを例に挙げて説明されています。

  • ヘレン・ケラー「モノや行為と同時に、決まったパターンの刺激が手のひらに与えられる」
    ↑帰納推論
  • ヘレン・ケラー「手に水を浴びたとき、同時に綴られた刺激が水を意味していることに気づいた」
    ⇛「同時にこれまでの経験もすべて同じことだったと理解した」
    ⇛「すべての対象、モノ、行為、モノの性質、様子に名前があるのではないか?という洞察を得た」
    ↑アブダクション推論

ヘレン・ケラーのように、子どもは言語学習のなかで、言語に決まったパターンや法則性、仕組みがあることに気づき、推測を進めていきます。

面白いのは、帰納推論とアブダクション推論は「正しい答えをだすわけではない」ということ。

知識と経験から推測して、失敗や誤りがあればそれを修正してまた推測する、という循環をヒトは言語学習で無意識に行っているのです。

 

オノマトペに潜むアイコン性を検知する知覚能力だけでは、言語の巨大な語彙システムに行き着くことは不可能であることを指摘した。そして、オノマトペから言語の体系の習得にたどり着くためには、「ブートストラッピング」という、今ある知識がどんどん新しい知識を生み、知識の体系が自己生成的に成長していくサイクルを想定する必要があると考察した。しかし、ブートストラッピング・サイクルが起動されるためには、最初の大事な記号は身体に接地していないといけないのだ(今井、秋田 2023:218)

知覚能力だけならチンパンジーなども持っているそうですが、言語として学習するのに必須な帰納推論、アブダクション推論を持ち合わせているのは人間だけ(例外的にそれらを持ち合わせたチンパンジー個体がいたことも紹介されてる)。

数多の言語起源論の中で、本書は、人間独特の思考の様式に注目した。アブダクション推論という思考である。人間は、アブダクションという、非論理的で誤りを犯すリスクがある推論をことばの意味の学習を始めるずっと以前からしている。それによって人間は子どもの頃から、そして成人になっても論理的な過ちを犯すことをし続ける。しかし、この推論こそが言語の習得を可能にし、科学の発展を可能にしたのである(今井、秋田 2023:246-247)

記号接地問題を解く鍵であると共に、ヒトをヒトたらしめているブートストラッピング・サイクル

オノマトペで感覚に接地したことばを学び、そこからオノマトペで表現できないような概念やことばの体系を推論改善していく能力がデフォルトで備わっていることに驚かされました。

ヒトは、居住地を全世界に広げ、非常に多様な場所に生息してきた。他方、そのために多くの種類の対象、多民族や自然などの不確実な対象、直接観察・経験不可能な対象について推測・予測する必要があった。未知の脅威には、新しい知識で立ち向かう必要があった。この必要性を考えれば、たとえ間違いを含む可能性があってもそれなりにうまく働くルールを新たに作ること、すなわちアブダクション推論を続けることは、生存に欠かせないものであった。アブダクション推論によって、人間は言語というコミュニケーションと思考の道具を得ることができ、科学、芸術などさまざまな文明を進化させてきたと言えるかもしれない(今井、秋田 2023:245)

コメント

  1. 三文字(i e π)寄れば文殊のヒフミヨ より:

     ≪…鍵は、オノマトペとアブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。…≫から、数学の基となる自然数を数の言葉ヒフミヨ(1234)である[大和言葉]の【 ひ・ふ・み・よ・い・む・な・こ・と 】に≪…オノマトペ…≫で観てみたい。

     [コンコン物語]で[グルグル物語]が、≪…アブダクション(仮説形成)…≫できるとか・・・

    令和6年4月に開設の岡潔数学体験館で,[言語の本質]としての[言葉の量化]と[数の言葉の量化]との 自然数のキュレーション的な催しがあるといいなぁ~

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