小さなモミの木は、ある日、男の人によって掘り出され、ある家へと運び込まれました。その家には病気で歩けない男の子がいました。男の子とモミの木はクリスマスを一緒に過ごします。冬が終わるとモミの木はまた森に返されます。それから何年も、モミの木は男の子と共にクリスマスを楽しく過ごしました。けれど、ある冬、いつになっても男の人は、モミの木を掘り出しにはきませんでした。男の子が心配でたまらないモミの木は……。
ちいさなもみのき|福音館書店
今回紹介するのは絵本の『ちいさなもみのき』。
作家のマーガレット・ワイズ・ブラウンさん、画家のバーバラ・クーニーさんによって描かれ、1993年に上条由美子さんが翻訳しました。
静かで温かな気持ちになれる絵本。
もみの木の視点で語られるクリスマスの物語。
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『ちいさなもみのき』のあらすじ、内容
森から少し外れた野原に小さなもみの木が立っています。
もみの木は一人で立っていることを寂しく思っていました。
そんなある日、森の方からやってきた男性に掘り出されたもみの木は、足の悪い少年の部屋にクリスマスツリーとして置かれました。
冬が終わると元いた場所に戻されて、いくつもの季節が流れていきます。
そうしてまたクリスマスの時期が近づくと、もみの木は再び掘り出されて少年の部屋に飾られるのでした。
しかし、ある年の冬。
いつも来るはずの男性が一向に現れません。
もみの木は暗い野原で星々に照らされていました。
クリスマスなしでは、世界は大きく冷たく、空っぽに見えます。
すると…
『ちいさなもみのき』の3つのおすすめポイント
『ちいさなもみのき』のおすすめポイントは3つあります。
①3曲のクリスマスソング
②心温まるストーリー
③バーバラ・クーニーの絵
順に詳しく説明していきましょう。
①3曲のクリスマスソング
本作では子供たちがクリスマスソングを歌うシーンが3回あって、そこには譜面と歌詞が載せられています(p21、25、33)。
しかし、それらの歌はタイトルが紹介されておらず、元の曲名が分かりません。
そのよる、こどもたちが やってきて、クリスマスキャロルを うたいました。そのよろこびのひに、おとこのこが つくったうたを、ふるいキャロルのメロディーにあわせて、うたいました。
マーガレット,W(1993)『ちいさなもみのき』(上条由美子 訳)p20 福音館書店
日本ではあまり聞かない曲のようですが、海外ではポピュラーなのでしょうか。
どうしても気になったので、ダメもとで福音館書店さんにメールを送ったところ…。
返信を頂くことができました。
福音館書店さん、ありがとうございます。
1曲目「O Tannenbaum」
ドイツ語「O Tannenbaum」
英語「O Christmas Tree」
ドイツのクリスマスキャロルで、日本では「も
2曲目「O Hurry, Ye Children」
英語「O Hurry, Ye Children」
この曲はイギリスがオリジナル。
日本では「来てよ雌牛
3曲目「Here We Come A-Wassailing」
英語「Here We Come A-Wassailing」
イギリスのヨークシャー地方で生まれた楽曲。
日本では「キャロルをうたって森の中」と訳されています。
②心温まるストーリー
『ちいさなもみの木』はもみの木の視点で話が進みます。
何度も季節が巡り、長い時間が一瞬のように過ぎていく描写は、木ならでは時間感覚を見せられているようです。
もしくは一人で野原に立っている時間の寂しさと、少年たちと過ごすクリスマスを心待ちにしているもみの木の心境が強調されているようでもあります。
それだけに、いつものように男性が来ないシーンには、こちらもギクリとさせられます。
少年が大きくなってもみの木が必要なくなったから?
もみの木が大きくなりすぎて運び出しができなくなったから?
足の悪い少年に何かあったから?
その答えは本書で確認して頂くとして、バッドエンドではないとだけ言っておきます。
③バーバラ・クーニーの絵
『ちいさなもみのき』はクリスマスの絵本ですが、キラキラはしていません。
落ち着いたトーンの色でシンプルに描かれています。
また、コントラストがハッキリしていて色使いにも統一感があるので、多色刷りの版画を見ているような印象を受けます。
このように素朴さの中に温かみを同居させるのは、バーバラ・クーニーの十八番。
綺麗でお洒落な表紙なので、クリスマスシーズンには読んで楽しむだけでなく、部屋に飾ってもよさそうですね。
『ちいさなもみのき』の感想
クリスマスと聞いて思い浮かぶものは色々あります。
ケーキや七面鳥などのご馳走、パーティ。
活気づいた街とセール。
友達や家族、恋人と過ごす時間。
自分はというと、絵本や物語に描かれるような、古風なクリスマスが真っ先に浮かびます。
なにより、そういう世界観が好きです。
グランマ・モーゼスやターシャ・テューダーが描くクリスマスです。
『ちいさなもみのき』は、そんな自分好みの雰囲気と世界観を持つクリスマス作品でした。
せっかくなので、クリスマスにまつわる自分の思い出を一つ紹介します。
幼稚園か小学校低学年くらいの頃、クリスマスに家族で少し遠くのスーパーに買い物に行くことが何度かありました。
12月24日は激混み、親の買い物も長くなるので、僕と兄はいつも近くの公園で待っていました。
普段は行かない公園、慣れない景色とかじかむ手、夕焼け。
そこにクリスマス要素はありませんが、自分の中には「クリスマスの時だけ遊べる公園」という高揚感がありました。
「早く買い物が終われ」と思いながら「もう少し買い物しててくれ」とも思える、長いようで短い不思議な時間が流れる場所だったのです。
クリスマスの特別感は、そんな何気ないところにこそ強く宿っていたのだと、振り返って思います。
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