『銀河の片隅で科学夜話 物理学者が語る、すばらしく不思議で美しい この世界の小さな驚異』を読みました。
著者は全卓樹(ぜんたくじゅ)さん、発売は2020年、朝日出版社から。
内容/あらすじとか
理論物理学教授による、科学エッセイの短編集。「テーマを決めずに、とにかく科学の面白さを伝えられるような本を書きたい」という思いから出来上がったそうです。
構成は宇宙、原子世界、人間社会、倫理、生命と5つにテーマにわかれており、どこからでも読めるようになっています。難しい説明や専門的な用語は控えめに、科学に疎い自分でも楽しめる内容になっていました。
一日の長さは一年に0.000 017秒ずつ伸びている。
500億年のちは、一日の長さは今の一月ほどになるだろう――空想よりも現実の世界のほうがずっと不思議だ、と感じるような、
物理学者のとっておきのお話を22、集めました。・流れ星はどこから来る?
・宇宙の中心にすまうブラックホール
・真空の発見
・じゃんけん必勝法と民主主義の数理
・世論を決めるのは17%の少数者?
・忘れられた夢を見る技術
・反乱を起こす奴隷アリ
・銀河を渡る蝶
・飛び方を忘れた鳥にそれを教える…真夜中の科学講座のはじまり、はじまり。
ほんのひととき、日常を忘れて、科学世界の詩情に触れてみませんか?
科学や文学が好きな人へのプレゼントにもぜひ。「夜話と名乗ってはいるが、朝の通勤電車で、昼休みのひとときに、ゆうべの徒然の時間に、順序にこだわらず一編ずつ楽しんでいただければと思う。」――著者
(Amazonより)
『銀河の片隅で科学夜話』の感想/レビュー
どの話も興味深く示唆に富む内容で、あっという間に読了。現役教授の雑談、思考遊びを見ているようで楽しい。好奇心の向くままにジャンルがあちこちに飛び交う話は、講義や専門書ではなかなか聞けないと思います。
しかし受け手のひらめきや好奇心を刺激するきっかけは、往々にしてそんな脱線話ではないかと思います。中高生、若い人に特にオススメ。
個人的に面白かったのは、ペルシャのマムルーク制度の話と、アリの持つ社会性を深堀り&分析した話。全体的に詩的な描写や表現が多かったのもよかったです。流れ星の話は科学的でありながらも、ロマンチックな結びになっていて読み物として秀逸。
『銀河の片隅で科学夜話』のハイライト/印象に残った箇所
印象に残った箇所を引用しつつ紹介。
同じ意見を持つ人が17%以上いれば、多数決を動かすことができる
声評の世界では、良貨は17%以上あるときに、悪貨を駆逐することができるのである。
多数決による集団的意思決定は、コンドルセが指摘したとおり、ものごとによく通じた者立ちが多く集まるときに力を発揮する。それはまた、十分な知識をもたない多くの人に混じって少数の賢者がいる場合にも力を発揮する(全 2020:113)
多数決の場においては、定まった自分の意見を持つ人(固定票タイプ)と、他の意見や状況に応じて選択する人(浮動票タイプ)がいます。
多数決の場に固定票タイプがわずかでも混じると、全体の意見は固定票タイプの意見に流されやすくなったそうです。そして固定票タイプがグループの17%以上を占めると、彼らは無敵になります。
異言語を学ぶだけで視野は広がる
異なった言語を知ることは、異なった世界の見え方を会得することである。すべての日本語話者が、最も日本語から遠い言語の一つである英語を、義務教育で教わるのは決して悪いことではない。(中略)ちょうど異国の料理の導入で食文化が豊かになるように、異国語の要素は一国の言語文化をより香り高い豊穣なものにするだろう(全 2020:129)
認知の根幹構造は生まれつき同じですが、使う言語によっては差異が出ることがわかっているそうです。そのため異国語を学ぶことには、多角的な視野を持つ意味でのメリットもあるということです。
面白いのは、言語学習による認知能力の獲得は、同一言語内でも効果が確認できたということ。つまり本を読んだり国語を勉強することにも意義があるということです。
異文化の才能を受け入れなければ科学も経済も発展しない
今日多くの国で、異文化からの才能を取り込むことなしには、先端科学技術の発展も経済の活況も見込めなくなっている。現代人はこれを首尾よく行えるだろうか。万民平等主義の建前とは裏腹に、われわれの周囲で異民族カースト間の軋轢が生じ始めていないだろうか(全 2020:147)
賛否わかれる話ですが、スポーツの世界でも同様の問題がたびたび話題にあがります。「外国人選手が日本代表として活躍することについて」。感情的に反発したくなる感覚もわからなくはないですが、個人的には長い目で見たとき、メリットが多いんじゃないかと思っています。
ゲーム業界なんかはそういうしがらみは少なく、ユーザーはとにかく面白いゲームがあればそれをプレイするし、人に紹介します。その流行が国内ゲームメーカーにも多大な影響を与えます(日本発で世界に影響を与えるという逆ケースも然り)。
つまりどの世界でも、変化を恐れて異分子を受け入れない国や業界は、発展が望めなくなっていくかもしれないということ。解釈の幅を広げて、個人でも新しいものや、未知のもの、理解できないものに対しても柔軟でありたいものです。
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