『孤独論 逃げよ、生きよ』を読みました。
著者は田中慎弥さん、発売は2017年、徳間書店から。
内容/あらすじとか
仕事、人間関係、因習などにより、多くの現代人は「奴隷」になってしまっている。「奴隷」とは有形無形の外圧によって思考停止に立たされた人のこと。あなたも奴隷になっていないだろうか。自分の人生を失ってはいないだろうか。奴隷状態から抜け出す方法はひとつ。それはいまいる場所からとにかく逃げること。逃げて、孤独の中に身をおくことが、自分を取り戻す唯一の手段であり、成功の最短ルートだ。孤高の芥川賞作家による、窮地からの人生論。(Amazonより)
『孤独論 逃げよ、生きよ』の感想/レビュー
著者は高校卒業から30歳を超えるまで、ニートとして実家で暮らしながら小説を書いて、芥川賞ほか多くの文学賞をとった特殊な経歴の持ち主。インターネットもやらず、携帯電話も持たず孤独に過ごす生活の中で培った「孤独との向き合い方」を語ったのが本書です。
常に誰かとつながっていないと不安な状態、職場や友達のあいだで輪を乱したり自分の意見をいえない状態、会社やコミュニティに心身を拘束されて思考停止になった状態を著者は「奴隷」であると述べます。しかし社会で生きていくには、人と関わったり同調するのも大切なこと。それゆえに生きるのは大変、だからこそ独りになる時間も大切なのです。
思考停止の奴隷になっていることを自覚できたなら、まずはその環境から逃げること。逃げてから模索すべきは自分にとって本当に価値のあること。そして自分のやりたい道に舵を切れば、必ず不安や孤独に直面します。それでも手探りで進むことが本当の充実感や喜びを与えてくれるというのが本書の要旨です。
後半からの著者の生い立ちは読み物としても普通に面白かったです。何かに一生懸命取り組んでいれば、必ずどこかで自分の弱さや未熟さにぶつかるもの。それは芥川賞作家の著者とて例外でなく、現在も自分の能力に対する不信や失望を感じる日々であるという話が印象に残りました。
『孤独論 逃げよ、生きよ』のハイライト/印象に残った箇所
仕事、学校、人間関係、因習、しがらみの奴隷になっていないか?
毎日が残業続きで、起きている時間のほとんどを仕事に拘束されている人。体力の限界ぎりぎりまでハードな仕事を課せられている人。つまり明らかに追い詰められて、自分を見失っている人は、典型的な奴隷状態に陥っている
田中慎弥(2017)『孤独論 逃げよ、生きよ』P15 徳間書店
最近読んでいた『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の主張と似ています。そこでは奴隷という表現はしていませんが、仕事に全身全霊状態になることを危惧しています。
勉強、修行は半永久的に続けなければいけない
どんな分野の職業であろうと、そこで駆使する能力は、天性のものもあるでしょうが、後天的に獲得しなければならないものもあります。だから、実践的な能力は手間と時間をじっくりかけてはじめて養われます。手間隙を惜しめばいつまでも身につかないのは当然のこととして、一度ついた能力も怠ればたちまち萎んでしまいます。
あなたの努力が報われて、やりたかった仕事にありつけたとしても、能力を磨く営みは半永久的に続けなければなりません(田中 2017:87)
なぜ読書が必要か?
作家を職業とするわたしの実感では、言葉は使えば使うほど失われていくもの。読書量が減ると、たちまち枯れていくのが感覚的によくわかります。(中略)するとどうなるか。言葉はわたしたちの考える素です。行動を決めるのも言葉です。枯渇すれば、能動的に活動することがままならなくなる。何度も述べてきたようにそれは思考停止を意味する状態であって、あなたは望まない環境に閉じ込められても、それに抗えない奴隷となります(田中 2017:124-125)
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