暗闇の効用|夜は私たちの友だ

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今回はヨハン・エクレフの『暗闇の効用』を読みました。

ヨハン・エクレフはスウェーデン出身のコウモリ研究科。

環境保護活動やライター、コンサル会社の経営などもしています。

日本での出版は2023年、翻訳は永盛鷹司さんで、太田出版から発売されました。

いま、街灯の照明をはじめとする人工の光が、多くの夜の自然の光を奪っている。その結果、古来から続く生物の概日リズム(体内時計)を乱し、真夜中に鳥を歌わせ、卵から孵化したウミガメを間違った方向へ誘導し、月明かりの下の岩礁でおこなわれるサンゴの交配の儀式すら阻害している。
本書は、人工の光による自然への影響(=光害:ひかりがい) をひもとき、失われた闇を取り戻そうとする呼びかけである。

引用元:Amazon

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『暗闇の効用』のあらすじ、内容

昨今、重大な環境汚染のひとつに光害が挙げられます。

最新のLEDで照らされた街は、暗かった夜を昼のように明るく変えてしまいました。

その光は人の体内時計を乱し、睡眠障害、不安、うつ、肥満などの原因となります。

さらに、光害は人だけでなく、地球上で暮らすほとんどの生物に影響を及ぼすことが分かってきています。

夜行性の動物、昆虫はもちろん、鳥類、魚類、植物など、その影響はドミノ倒しのように連鎖して人間を脅かすようになるでしょう。

 

本書はコウモリ研究科で「夜の友」でもある著者が、暗闇があらゆる生命に対してどのような意味を持つのかを考え、光害から暗闇を守ることの必要性を訴えた本。

暗闇の効用と光害を示す具体的なデータやエピソード、詩的な描写で綴られる体験談で構成されていいます。

『暗闇の効用』で印象に残った箇所

『暗闇の効用』で印象に残った箇所は3つあります。

  1. 美的観点からの暗闇の効用
  2. 詩情溢れる暗闇描写
  3. 光害対策は今すぐ誰にでもできる

順に説明していきましょう。

①美的観点からの暗闇の効用

さまざまな素材における、ほとんどわからないほどの細やかな質感や古つやといった微妙なディティールや影こそが、全体を構成する重要な要素であるーこのような、古くからある東洋の人生観を谷崎は象徴している。光と闇は対立するものではない。光と闇の微妙なニュアンスは芸術、建築、文学のなかの諸要素を結び合わせるのだ。

ヨハン・エクレフ(2023)『暗闇の効用』(永盛鷹司 訳)  P182 太田出版

本書で特に印象に残ったのは、谷崎潤一郎の『陰翳礼賛いんえいらいさん』が取り上げられていたこと。

『陰翳礼賛』が書かれた1930年代は、世界中の都市にネオン化の波が押し寄せていた時代。

そんな中で谷崎は、陰翳を使って芸術文化を作り上げてきた日本古来の美意識が失われることを危惧しました。

 

『陰翳礼賛』の国内での知名度はそこまで高くないと思いますが、世界の建築業界では必読書レベルで愛読されているそうです。

60年代にはノーベル文学賞にも推薦されており、照明デザインの考え方の基になっているというから驚きです。

実際のところ、日本には美的観点から暗闇の効果を考える文化は古くからあり、万葉集を開けば夜(月)を扱った歌が大量に詠まれていることが分かります。

 

暗闇を活かした景観と言えば、今月の初め頃(10月)、長野県千曲ちくま市にある「姨捨おばすて棚田たなだ」を見にいきました。

姨捨の棚田は「田毎たごとの月」が見られることで有名です。

その歴史は十六世紀まで遡り、水を張った田んぼ一つ一つに月が映る様子は、松尾芭蕉や小林一茶、歌川広重などが作品に残しています。

歌川広重「信濃更科田毎月鏡台山」

引用元:千曲商工会議所 日本遺産シリーズ②

姨捨の棚田

姨捨の棚田2

自分が棚田に到着したのはお昼過ぎ、時期的に田の刈り入れも終わっていました。

「田毎の月」を見られなかったのは残念ですが、昼間は昼間で心地よい風の吹く素晴らしい眺望の丘。

周囲に高山もないので、夜の間中、田んぼが月を受け止めるであろうことが想像できます。

自然の中に生活があり、生活の中に自然(暗闇)を楽しむ文化があることを肌で感じることができました。

②詩情溢れる暗闇描写

窓の鎧板の隙間からちらつきながら差し込んでいた夕暮れの薄明りは弱まっていき、外の空は濃紺に変わる。屋根裏部屋に入る湿った夜の空気は、刈られたばかりの芝生、タール、太陽に温められた薪の心地よい香りを運んでくる(永盛 2023: 8-9)

本書の内容は科学的な事実に基づいていますが、学術的な堅苦しさはありません。

その秘密は、著者の個人的な体験談が豊富に書かれているところにあります。

夜に入っていく様子や、夜の風景描写は詩的。

暗闇の効用や重要性、光害の危険性というシリアスなテーマを扱っていながら、夜の美しさ、不思議さ、楽しさに歩み寄ろうとする姿勢が、こちらをワクワクさせる文章になっているのです。

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③光害対策は今すぐ誰にでもできる

地球の気温の急上昇を止めたり、プラスチックや有害物質を環境から一掃したり、外来種(つまり、本来いるべきではない場所にいる動植物)の拡大を止めたりするのは、不可能ではないにしても、とてつもなく難しいだろう。しかし、照明を抑えたり消したりするのは、明らかに簡単だ。少なくとも技術的には、あらゆる環境問題のなかで光害が最も簡単に解決できる(永盛 2023: 204)

光害対策は今すぐ、誰にでも、簡単に取り組むことができます。

使っていない部屋の電気を消したり、過剰な明るさのライトを控えたり、それだけでも確実に効果は表れてくるそうです。

光害対策への意識が高いヨーロッパでは大気中に放出される光量を定めた法律が成立したり、人口の光を控えることを奨励する日があるのだとか。

『暗闇の効用』の感想

ここ数年、夜に外出すると対向車のライトをまぶしく感じることが増えました。

LEDの街灯が過剰に明るすぎるように感じていました。

光害への意識ではなく、個人的な感覚として「ここまで明るくする必要あるか?」という意識があったのです。

もちろん、安心安全な生活のために明かりは必要だし、電球のない時代に戻ることもできません。

考えるべきは極端な話ではなく、より環境に配慮した「適度な明るさ」を求める段階に来たのではないかということです。

 

過剰な光を抑えて最適な明るさを探ることは美的な観点からも、暗闇への配慮からも大切なこと。

それは巡り巡って自分自身や他の生命を守ることにも繋がるようです。

光害という概念を知れたこと、問題意識を持てたことを本書に感謝したいです。

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