室伏広治が明かす「ゾーンの入り方」について

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ゾーンの入り方』を読みました。

著者は室伏広治さん、発売は2018年、集英社から。

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内容/あらすじとか

大事な舞台やプレゼンテーションで結果を出すための集中力はどうすれば身に付くのか?集中状態である「ゾーン」とは何か?つねに自己との記録に向き合い、男子ハンマー投げ選手として活躍した著者が、良質な集中状態とはどんなものなのかを語り、集中するための方法論と哲学を満を持して公開する。
アテネ・オリンピックでは金メダル、ロンドン・オリンピックでは銅メダルを獲得するなど、多くの大会で好成績を残し、二〇一六年に引退後は学者、指導者として活躍する著者が今だからこそ語る、スポーツや仕事、人生にも役立つ究極の集中法をまとめた一冊。

室伏広治(2018)『ゾーンの入り方』カバー袖 集英社

本書の目的は「自分の持っている力を極限まで引き出すにはどうすればよいか」を追求すること。その答えの一つが集中力であり、究極の集中状態をゾーンと呼びます。

若い頃にがむしゃらに練習を重ねていた筆者は、キャリア後半に「量より質」を意識した練習へとシフト。なぜその練習をするのか、どのように体を使うのか、どんな効果が見込めるのかを徹底的に考え続け無駄を省いていきました。行き詰まれば違うことをしてみたり、他分野のスペシャリストに話を聞いたり、変化と遊び心も大切にしたそうです。

そして五輪のような大舞台では、場所も人も食も環境もすべてが異なる変化にさらされます。想定外のことはいくらでも起こり得るし、百戦錬磨のアスリートですらプレッシャーと緊張で普段のパフォーマンスが発揮できなくなってしまうことが珍しくないそうです。そんな中でも精神を乱さずにやるべきことに集中するには、変化に抗わないことが大切と筆者は述べます。

つまりゾーンを再現するには心技体が充実していることが前提となります。日々、目的を明確にした練習に全力で取り組み、本番ではパフォーマンスを発揮することに集中する。ゾーンはとつぜん起こる覚醒ではなく、密度の濃い練習で心技体を鍛えた先にある境地なのです。

筆者が提案するトレーニングや考え方は、他で見たことのないような独特なものが多いです。しかしそう考えるにいたった思考のプロセスがわかりやすく説明されており、その理論が競技生活のなかで洗練され、結果として示されてきたという点で大いに説得力があります。

『ゾーンの入り方』の感想/レビュー

スポーツに限らず、あらゆることは突き詰めていくと科学的な思考にたどり着くのだと感じました。たとえば「全力を出す」と簡単にいっても、本当の意味で全力を出せている人はそういません。思考停止で数をこなしたり、心身を酷使させて鍛えたつもりになっていることを全力とは言いません。本当に全力でやろうと思ったら、指一本伸ばすことですら非常に高度で難しい動作になるそうです。

筆者はハンマー投げの練習として1日100本の投げ込みをしていたそうですが、キャリア後半にはその数を半分以下の32本まで減らしています。それは年齢からくる体力的な問題や怪我防止の目的もありますが、質を重視して全力で取り組むと数はこなせない、ということも大きな理由になっているそうです。1本ごとに動画撮影してフォームをチェック。改善点を探して修正しながら投げる32本の方が、なんとなく投げていた100本よりも圧倒的に密度の濃い練習になっていたと述懐しています。

またその考えを裏付けるような、父親の室伏重信さんとのやり取りも興味深いです。

私が入部した陸上部の練習では、日本中の運動部の定番である「一〇〇メートルダッシュ×一〇本」というようなメニューがありました。練習でくたくたになって家に帰って父にその話をすると、こう言われました。

「一〇〇メートル走は大きな瞬発力を要する競技。真剣に全力で走ったら、二本も走れば立ち上がれないほど疲れるものだ。そんな一〇本も二〇本も走れるというのは、どうせどこかで手を抜いて走っているだろうから、ただ疲れるだけで何の意味もない」(室伏 2018:102-103)

ここでの「何の意味もない」というのは、一〇〇メートル走に必要な能力を鍛えるうえで役立つトレーニングではない(効率的なトレーニングではない)という意味でしょう。

本気、真剣、全力といえば聞こえはいいですが、定義が曖昧なゆえに思考停止の逃げ道になってしまいがち。全力とは目的を持って効率的にトレーニングを積み、本番でそのすべてを出し切ること。そしてゾーンとは本当の意味での全力を積み重ねた先にある集中状態なのです。

 

漫画のようにここ一番でゾーンに入って、周りがスローに見えたり、音が消えたり、みたいなとんでも体験ができたらカッコいい。なんて思ってましたが、当然ながら簡単にゾーンに入れる方法なんてありませんでした。

実際のところ難しいのは、自分では全力を尽くしてるつもりでも、非効率な方法になっていたり、下手をすれば逆効果、無意味な努力になっていることが日常多くのシーンで起こっているのではないかということです。それに自分で気づいて適宜修正できたり、周りに指摘してくれる人がいればいいですが、基本的には手探り状態で完成のないベストを目指して改善改良していく形になります。苦しめばいいってものではないけど、それ自体、非常に苦しい道のりだと思いました。

『ゾーンの入り方』のハイライト/印象に残った箇所

本当のおもしろさは最初からあるわけではない

本当のおもしろさというのは、いきなり最初からあるわけではありません。一生懸命に取り組んで上達すると、やがて壁に当たることもあります。その壁を乗り越えようとがんばることでレベルが上がり、また高度なおもしろさを発見していけるのです(室伏 2018:58)

完成はなく、改善変化の繰り返し

つねに、よりよいトレーニング方法を追求し続けて探し当てたとしても、それで完成するわけではなく、いつも改革また改革、改良また改良の連続です。いま自分にはどんな練習が必要か。それは、毎年、毎回、日々内容が変わっていきます。年齢によっても変わるし、体調や環境によっても変わります(室伏 2018:82)

自分のどこが悪いのかを見なければ、改善もできない

自分の欠点を認めて、それをどうやって改善するか。自分の弱点を克服しようと努めるのは、肉体的な苦しさよりもさらにつらいはずです。しかし、それを乗り越えなければ新たな自分は出てこないのです(室伏 2018:113-114)

失敗を恐れる必要はない

私はシドニー五輪からロンドン五輪までと世界陸上をあわせて一四回代表になり、九回はノーメダルでした。たくさんの失敗があったからこそ、五個のメダルがあるのです。
この失敗体験がなければ、五個のメダルはなかったはずです。だからこそ私は何度でも繰り返し「失敗を恐れるな」「失敗は少しも恥ずかしいことではない」と言っているのです(室伏 2018:166)

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