『犯罪心理学者は見た危ない子育て』を読みました。
著者は出口保行さん、発売は2023年、SBクリエイティブから。
内容/あらすじとか
犯罪心理学の観点から子育てを論じた本。筆者は犯罪心理学者として様々な少年犯罪を見て、その責任の一端は「親の子育て」にもあると確信したそうです。
子育ての成功法則を語るのは難しいけど、失敗事例を見ることで子育ての悩みを和らげたり、似た失敗を防ぐことはできるかもしれない。子どもの非行・犯罪の事例を見ながら、失敗を学びに変えていくことが本書の目的となっています。
『犯罪心理学者は見た危ない子育て』の感想/レビュー
本書では親の養育態度を4つに分類していますが、どれに当てはまってるから悪いとか、どれが良いということではなく、極端に偏っていればどの態度も子どもに悪影響を与える危険性があるという話をしています。
子育てにはどうしても偏りが出てしまうし、バイアス(思い込み)で動いてしまうのが人間。それを前提として、定期的に話し合い、考え、省みて変化・調整していく「ing」な子育てを提案しているのが印象的でした。
(本書で紹介されている4つの養育態度↓)
- 過保護型(監視、我慢させない、親が代わりにやるetc)
- 高圧型(命令、禁止、罰則、理想重視、親自身の劣等感etc)
- 甘やかし型(過度な買い与え、高額なお小遣い、子どもの要求に甘いetc)
- 無関心型(衣食住のみ保証、無視、しつけをしないetc)
多くの親は子どものことを真剣に考えているからこそ、自分のやり方は子どものためになっていると思い込んでしまいがち。しかし、その背景には子どもを自分の思い通りにしたいだけだったり、自分の理想や劣等感、価値観を子どもに押し付けているだけだったり、親自身無自覚の歪みが影響していることが珍しくないそうです。
その意味で、親は子どもを見ると同時に自分自身のことも省みる必要がありそうです。やもすれば自分自身が親から偏った教育を受けてきたと気づくかもしれません。場合によっては自分は大人になれていないと自覚するかもしれません。
そこで自分は不幸だと嘆いても仕方のないこと。「気づき」を得て自分自身に向き合って考える。子育ては人を育てるのではなく(育てるなんておこがましい)、子どもに向き合いながら一緒に成長していくプロセスなのだと思いました。
『犯罪心理学者は見た危ない子育て』のハイライト/印象に残った箇所
子育ては偏る、人間だもの。
子育ては偏る。なぜか?
それは、人間が「思い込み」の強い生き物だからです。
「思い込み」は、ときに行動の起爆剤となり、自身の源となり、いい効果を生むことがあります。しかし、一方では他人や自分を苦しめるものにもなります(出口 2023:35-36)
思い込みの難しいところは、思い込んでいるとなかなか自覚できないということだと思います。他者から指摘されたときに素直に認められればいいですが、そうもいかない場合は自分で気付くしか対処法がありません。
それはたぶん、文章を書いている瞬間には誤字に気付けないのと同じ。どれだけ気をつけても誤字を防ぐことはできず、後から文章を見返すことでしか発見できません。そこすらすり抜けてしまうと、読者に指摘されて気づく、という恥ずかしい目に…。
思い込みや偏見は誰にでもあって、それが自分や他者を苦しめたり、生きにくくさせるようなら気づいて配慮する必要があるのです。『自分が「捉われている」ことを痛切に意識し、自分の「偏向」性をいつも見つめている者は、何とかして、ヨリ自由に物事を認識し判断したいという努力をすることによって、相対的に自由になり得るチャンスに恵まれてることになります』(丸山真男 (1961) 『日本の思想』p156 岩波書店)。
自分の欠点や劣等感が子育てに出ることもある
子どもの頃から、小さな我慢や、それに対処する経験をしてきたことで欲求不満耐性が高まっていくのです。
過保護型の親は、親自身の欲求不満耐性が低いとも考えられます。手助けしたい欲求を抑えて、それに対処しなければなりません。これもトレーニングです。少しずつ我慢して見守ることを繰り返して、親自身の欲求不満耐性を高めていくことです(出口 2023:67)
子どもが心配でも、頑張れば出来ることなら黙って見守る。過剰にサポートしたり、障害をすべて取り除いたり、代わりに全部やってしまうのは、「心配」という気持ちから自分が解放されたいだけでしょ?っていう痛恨の話。
良かれと思ってやってることでも、自分のエゴや感情が大きければ極端に偏った子育てになってしまう。難しいのはやはり、親自身が自分の深層心理に気づいていない、無意識に見ようとしてないというところではないでしょうか。
心から反省できないのは、内省が足りないから
非行少年の中には、反省したフリがうまい子がたくさんいます。幼い頃から叱られ続けているので、とりあえず謝っておけば何とかやり過ごせると思っています。(中略)反省と内省は違います。内省とは、自分自身の心に向き合い、自らの言葉や考え方を振り返って客観的に分析すること。気づきを得ることが目的です。(中略)「違う!自分のせいじゃない!」と叫んでいるうちは、自分の心に向き合うことができません(出口 2023:70-71)
こういうスタンスは子どもだけでなく、大人にも多く見られると思います。よくありそうなシチュとしては、男女の喧嘩で「ごめんごめん」と平謝りして、「わかってない!」と一蹴される時など。
なぜ相手が怒っているのか、何が悪かったのかをしっかり考えずに「とりあえず相手が怒ってるから謝っておこう」は表面的な反省でしかなく、ただのご機嫌取りになってしまっているのです。
心理的拘束から逃れるのは困難
物理的には拘束されていなくとも、心理的拘束から逃れるのは非常に困難です(出口 2023:99)
マインドコントロールは知識や方法を学んでいなくても、様々な場面で意図せずして起こります。孤立させたり不安を煽ったりして相手を依存させたり、高圧的な態度や怒りで相手を支配下に置いたり。
このように支配された人は、相手の顔色ばかりうかがうようになり、自分から積極的に行動したり自発的に考えることをやめてしまうそうです。洗脳が進むと「逃げたい」「離れたい」ということすら考えなくなるから非常に厄介ですね。
間違えることは悪いことじゃない
少年院の先生は、養育態度が偏った親に対しても「あなたのここがよくないので、もっとこうしてください」とは言いません。「あなたはこういう思いでやってきたのですね」と話を聞き、受け止めます。受け止めることで本人に気づきを促します。そうでなければ、変わることができないのです。
一番のポイントは、自分たちの養育態度や子育て方針が、子どもにどういう影響を与えてきたかを理解することです(出口 2023:221)
間違えるのは悪いことではない。間違いに気づいて改善すればいい。
本書には子育てタイプのチェックリストが付録として付いています。そのチェックリストは自分がどのタイプかを判別するものではなく、子育てを振り返って偏りや歪みがないかを話し合うためのもの。筆者は定期的に家族で話し合いをする機会を設けているそうです。
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