アイディアが軽やかに離陸し、思考がのびのびと大空を駆けるには?自らの体験に則し、独自の思考エッセンスを明快に開陳する、恰好の入門書。考えることの楽しさを満喫させてくれる本。文庫本のあとがきに代わる巻末エッセイ“「思われる」と「考える」”を新たに収録。
外山滋比古 (1986年) 『思考の整理学』裏表紙 筑摩書房
今回紹介するのは『思考の整理学』。
文学博士の外山滋比古さんが書いた学術エッセイ集で、1986年に文庫化されました。
【どんな本?】
東大・京大生に支持され続けている超ロングセラーの学術エッセイ集。
受動的に知識を得るのでなく、自分で考え発見するためのヒントが書かれている。
【こんな人にオススメ】
・これから大学で学ぶ人
・自分の考えや意見を組み立てられるようになりたい人
・社会人になってからも学び成長し続けたい人
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『思考の整理学』のあらすじ、内容
学校教育は先生と教科書に引っ張ってもらう、受け身型の「グライダー人間」を量産してきました。
しかし、これからの時代はエンジンを積んで自分の頭で考えることのできる「飛行機型人間」が必要です。
自分の頭で考えるとはどういうことか?
いいアイデアを生み出すにはどうすればよいか?
一時の思い付きを普遍性のある思考にするには?
こういった問題に対して、具体的な事例や実体験を交えながら筆者独自の思考法が紹介されていきます。
『思考の整理学』で印象に残った箇所
①いいアイデアは寝かせる必要がある
どうして、「一晩寝て」からいい考えが浮かぶのか、よくわからない。ただ、どうやら、問題から答が出るまでには時間がかかるということらしい。その間、ずっと考え続けていてはかえってよろしくない。しばらくそっとしておく。すると、考えが凝固する。それには夜寝ている時間がいいのであろう(外山 1986: 38)
筆者は思考をまとめたり、新しいアイデアを考えるには「寝かせる時間」が大切だと述べます。
もちろん「寝ていれば勝手にアイデアが降ってきます」というわけではなく、問題意識を持って情報収集や勉強をしていることが前提の話。
そのうえで、まったく別の本を読んだり、他人と雑談したり、テレビを見ている時などに新たなヒントが得られることがあります。
そういったアイデアを集めて寝かせることで、思考は整理されていくのです。
②創造性を働かせるためには忘れることが大切
頭をよく働かせるには、この”忘れる”ことが、きわめて大切である。頭を高能率の工場にするためにも、どうしてもたえず忘れて行く必要がある。
忘れるのは価値観にもとづいて忘れる。面白いと思っていることは、些細なことでもめったに忘れない。価値観がしっかりしていないと、大切なものを忘れ、つまらないものを覚えていることになる(外山 1986: 115)
コンピューターが生まれる前は知識を蓄えることが重要視されてきました。
しかし、現代人に求められるのは知識を並び替えたり組み合わせたりして、新しい価値観を生み出す創造性です。
そのためには知識を忘れる、捨てるといった作業が非常に重要になってきます。
上手に忘れる方法として筆者は以下の方法をオススメしています。
・睡眠
・酒(よほどの時でなければ推奨しない)
・場所を変えてお茶を飲む
・異種のことに取り掛かる
・運動、散歩
③他分野との接触が新たなアイデアを生み出す
企業などが、同族で占められていると、弱体化しやすい。それで昔の商家では、代々、養子を迎えて、新しい血を入れることを家憲としたところがすくなくない。似たものは似たものに影響を及ぼすことはできない、という。同族だけで固まっていると、どうしても活力を失いがちで、やがて没落する。
新しい思考を生み出すにも、インブリーディングは好ましくない。(外山 1986: 167)
筆者は自身の経験から、他分野との交流がアイデア作りに有効であることに気づいたそうです。
もちろん、同業者で集まることがすべて悪いと述べているわけではありません。
他分野との交流が思考に与える影響の大きさを説いているのです。
『思考の整理学』の感想
①独自の思考法が多い
アイデアはしばらくの間寝かせるべし。
知識は忘れる、捨てることも大事。
異なる分野の人たちと積極的に関わった方がよい。
筆者の語る思考法は学校で習わないという意味で独自のものだと感じました。
学生時代は知識を詰め込んでなんぼの世界。
実際、物を考えるにはある程度の知識が必要なので、「忘れる」「捨てる」にはなかなか意識が向かないし、実践するにも勇気のいる考え方ですよね。
また高校で理系・文系、大学で学部・学科ごとに区切るのは、思考の整理という観点からはあまりいい環境とは言えないのかもしれません。
『日本の思想』で同じことが危惧されていたので、印象に残りました。

②『アイデアのつくり方』に似ている
アメリカの大ベストセラー『アイデアのつくり方』を書いたジェームス・W・ヤングさんはアイデアを「既存の要素の組み合わせ」と定義しました。
そこで紹介されている「材料となる既存の情報を集めて、あとはひたすら寝かせることでアイデアを孵化させる」という方法は、本書で紹介されている方法とよく似ています。
もしかしたら、筆者は『アイデアの作り方』を読んでいたのかもしれません。
いずれにせよ、どちらの方法も「何もせず寝ているだけでアイデアが降ってくる」わけではないことに注意したいです。
③頭脳労働への勇気をもらえる
自分は新しいアイデアを生み出したり、斬新な考え方を提示することに対して、大きなハードルを感じていました。
学生時代の読書感想文で「思ったことや感じたことを自由に書いてみましょう」と放り出され、真っ白な紙に墜落した経験は一度や二度ではありません。
「独創性=新しいものを0→1で生み出す」と考えていたのが良くなかったのだと思います。
既存のもの同士を組み合わせたり、並べ替えることで新しいものを作るという触媒的創造は、文章を書く上でも何かを作るうえでも、勇気のもらえる方法でした。
まとめ
非常に有名な書籍。
大学に入って間もない頃、「東大・京大生にもっとも読まれた本」みたいな帯に釣られて読んだことを覚えています。
何年かぶりに読み直してみて、やはり面白い本だと思いました。
ただ、それは筆者の思考法に驚かされるというよりは、他の書籍や自身の体験で得た知識が本書と繋がって線になる感覚の面白さです。
「なんとなくこうだ」と思っていることがあって、よく似た主張の本を見つけて納得して、本書でまた目にして「やっぱりそうだ」となる。
それが正しいかは分からないのですが、体感として感じていた「なんとなく」に根拠が与えられていくのは爽快感があります。
寝かす、忘れる、削るの思考整理法は、無意識に任せる部分が大きいのですが、無意識に委ねるために意識的な努力が必要なことを忘れてはいけないと思いました。
「人事を尽くして天命を待つ」ではありませんが、意識的に考えてもう出て来ないというところまではしっかり苦しむ必要があるんですね。
よく、考える、という。すこし考えて、うまくいかないと、あきらめてしまう。これでは本当にいい考えは浮かんでこない。もうだめだ、と半ばあきらめたところで、なお、投げないで考え続けていると、すばらしい着想が得られる。せいてはいけない。根気が必要である(外山 1986: 169)
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