成績や肩書に縛られない、リスクを恐れずにチャレンジする、コミュニケーション能力を高める、ワクワク感を大切にしてミッション、ビジョン、パッションを持つ……。国際ビジネスの最前線で活躍する著者から若い世代に向けたメッセージ。自分の道を見つけ、夢と希望に向かって生きるための実践的アドバイス。
今北純一(2011) 『自分力を高める』裏表紙 岩波書店
今回紹介するのは『自分料を高める』。
著者は今北純一さん、2011年に岩波書店から発売されました。
【どんな本?】
肩書、収入、ステータスなど、相対的な比較から抜け出して充実した人生を送るための「自分力」を高める方法を紹介した本。
【こんな人にオススメ】
・自分のやりたいことが見つからない人
・今の生活に疑問や不安がある人
・人としての成長を求めている人
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『自分力を高める』のあらすじ、内容
金持ちと貧乏、一流と二流、成功と失敗……。
相対的な固定観念は、いい加減な他者との比較でしかありません。
それでは何を頼りに生きるか、どうアイデンティティを保てばよいか。
それを見つける能力を、筆者は「自分力」と定義します。
筆者は東大卒、三菱系会社、オックスフォード客員教官と、日本でならいくらでも通用する肩書を持ちながら、国際的なシーンでは肩書やステータスが通用しないことを痛感しました。
この事実を「安易なブランド思考をやめろ」という天の声だと受け止め、自分に何ができるか、何をやりたいかを模索。
挑戦と試行錯誤を通して自分力を高めてきたそうです。
同時に、肩書や収入は幸福とイコールではなく、自分のやりたいことを見つけ、情熱をそそぎ、成長していくことで人生の満足感は高まると主張します。
『自分力を高める』で印象に残った箇所
本書で印象に残った箇所は3つあります。
①一人になって考えて「自分の宇宙」を確立する
②リスクを取らぬ者に栄光なし
③問い続け、成長し続けることで自分力は高まる
順に詳しく説明していきましょう。
①一人になって考えて「自分の宇宙」を確立する
もちろん私は、友達とのつながりを否定しているのではありません。携帯電話を持つなとか、メールをすべてやめろ、などと言っているのでもありません。緊急連絡が必要ということだってあるでしょう。
ただ、「自分一人きりになる」ということの重要さを知ってほしいのです。(今北 2011: 48)
現代ほど一人きりになれない時代はないと思います。
自室にこもったり、移動していたり、物理的に一人になる時があっても、そこには必ずスマホやPCがあって、ネット世界と繋がっています。
わずかな隙間時間や暇さえもスマホで埋めてしまうので、何もせずぼーっとしたり、一人で何かを考える時間が極端に減っているのです。
SNSや動画、ニュースなどを見て、溢れるほどの情報を受け取ることは、自分の頭で考えることの放棄になるし、個人的な悩みからの逃避にもなります。
ソファに寝転んでスマホをいじっていたら2、3時間経っていたという経験は誰にでもあるでしょう。
自分の頭で考え、疑問を持ち、それに答えるという能力は「自分力」の一つ。
本当の意味で一人になって、ぼんやりと思索にふける時間を大切にしようと思いました。
一人でずっと考えたすえに得た答えは、「人生で大切なのは、学歴でも、社会的ステイタスでも、お金でもない。『自分の宇宙』を持っている人が幸せなんだ」という、ごく当たり前のことでした。(今北 2011: 50)

②リスクを取らぬ者に栄光なし
なぜなら、リスクを取らないということは現状維持であり、行動を何も起こさないということだからです。行動を起こさなければ、新しい出会いも刺激も発見もなく、これまでと違う世界はまるで見えず、変化は何も起こらない。変化がまったく起こらなければ、新しい情報も、知識も知恵も、そして新しい経験も人間関係も、何一つ自分の手に入らない。
これから先の人生で、新たに得られるものが何もなく、成長の可能性もゼロというのは、人生における最大のリスクでしょう。(今北 2011: 129)
リスクを取らなければ損害を被ったり何かを失ったりすることはありません。
しかし、筆者は「不幸でない状態は幸せとイコールではない」と述べます。
とかく安定志向がもてはやされがちですが、安定した生活を送っていても何か物足りない、このままでいいのかという不安がつのるのはよくある話。
ただ、筆者は何でもかんでもリスクを取れと言っているわけではありません。
想定しうるチャンスとリスクを洗い出して比較検討する、判断力や思考力も大切だと述べています。
③問い続け、成長し続けることで自分力は高まる
「人はなんのために勉強するのか、なんのために働くのか、なんのために生きるのか」という問いかけを自分に対して続けることが、ミッションにたどりつく道だと私は考えています。
そして、その道のりは、自分力を発揮し強化し高めるための旅でもあると思うのです。(今北 2011:166)
ここで言うミッションとは「自分はこれがやりたい」という目標のこと。
筆者はミッションとビジョン(どういう道筋で行くか)、パッション(夢をとことん本気で追いかけるエネルギー)が揃えば夢は叶うと述べています。
しかし、世の中にはミッションが見つからない人が多く、こればかりは人に聞いてもネットで検索しても見つけることはできません。
自分で考え問い続けて、ゆっくり見つけていくしかないのです(一人きりになることの重要性)。
『自分力を高める』の感想
①本文に説得力がある
・自分のやりたいことを追い求める
・リスクを恐れずに行動する
・問い続ける、成長し続ける
本書で紹介される「自分力」の高め方は、聞けば当たり前のようなことばかりです。
しかし、自伝的に語られる筆者の体験と実践を通すことで、たしかな説得力が生まれています。
実際に、筆者はリスクを恐れずに国内での出世コースから降りて、海外の大手企業で得られる一生安泰の保障を蹴り、職場を転々としています。
安定や肩書、収入にとらわれず、他人と比較することなく、「もっと成長したい、もっとクリエイティブでいたい」という自分の欲求に従って生きてきたのです。
箇条書きにするとフワッとした印象のアドバイスですが、しっかりと本文を読むことで確かな重みが生まれます。
仕事の中身は違っても、今までのすべての「学び」は一貫してつながっている。しかも、職場を変わるごとに、私の持つ情報、知識、知恵のストックは、雪だるま式にどんどん大きくなっています。(今北 2011: 39)
②闇雲なリスク主義者ではない
筆者は終始熱い内容を語っていますが、一方で非常にクレバーだと思いました。
東大を出てオックスフォードに行くほどの能力を持ちながら(その言い方がブランド思考ですが)、「世界には天才がウジャウジャいて、自分は特定の専門領域でトップになれない」と悟ったそうです。
ただ、それは天才と自分を比較して悲観しているわけではなく、事実として認識して「それならどうすればいいか」を考える材料にしているのです。
感情的な比較から離れて自分の頭で考える、これぞ自分力のなせる業です。
③あとは実践あるのみ
毎度のことながら、本は読んだだけでは血の通った知識にはなりません。
自分の生活の中に活かすことができて、初めて血肉に変えることができます。
ちなみに、筆者も読書についてこんな風に述べていました。
若い頃に読んだ本の内容を、あとになって本当に理解し、現実とリンクさせながら、自分力を高めることができる。これが読書の素晴らしさです。書物を通じて、歴史上に足跡を残した先達と出会い、彼らの英知を自分の人生のガイドとし、生涯の財産とすることができる。これこそが、本のすごさだと思います。(今北 2011: 29-30)
まとめ
ノウハウを並べた自己啓発系の本かと思いきや、自伝と絡めてのアドバイス的な内容となっており、いい意味で裏切られました。
筆者の劇的な人生は物語として面白く、それでいて「自分力」を高めるヒントに溢れているので、楽しみながら学べる良書です。
ただ、リスクを恐れず行動すること、他者との比較やブランド思考をやめることなどは、シンプルであるがゆえに実践は簡単ではありません。
「他者との比較NG」と理屈で分かっていても、反射で比較してしまうことがあります。
「自分はブランド思考なんて持ってない」と思っていても、ナチュラルに物事の尺度に使ったり、誇ったり卑屈になったり、自覚がない部分でブランド思考の枠組みの中にいることが分かります。
そういった問題にどう向き合って、どう超えていくか、そこに悩み苦しむことがまずは自分力を高める修行になってくるのでしょう。
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