「国語は冒険だ!」と言われたら、驚きませんか?そう、国語には未知の世界や存在が溢れています。けれども危険を恐れず、一歩を踏み出せば、新しい出会いと成長への機会が待ち受けています。学ぶ意味や楽しさだけでなく、国語を使ってどう生きるかを、「冒険」をモチーフに語る一冊です。
渡部泰明・平野多恵・出口智之・田中洋美・仲島ひとみ(2021) 『国語をめぐる冒険』裏表紙 岩波書店
今回紹介するのは岩波ジュニア新書の『国語をめぐる冒険』。
日本文学研究者である渡部泰明さん他4名の研究者による共著で、2021年に岩波書店から発売されました。
古典・文学・言語など、国語をもっと冒険(勉強)したくなる!
5人の研究者がそれぞれの切り口で、国語を学ぶ意味・大切さ・楽しさを書いた本。
『国語をめぐる冒険』のあらすじ、内容
『国語をめぐる冒険』は5人の作者がそれぞれ1章ずつ担当して、国語という冒険で得られる学びについて書いています。
「冒険」とは危険を顧みずに挑戦する行為。
「学び」とは成長を求めること。
「成長」とは今までの自分を壊して(危険)、新しい自分に成ること(挑戦)。
つまり「成長」=「冒険」であり、国語は人としての成長に深く関わる科目であることから、「冒険」と言えるのです。
第一章「国語は冒険の旅だ」渡部泰明
人が理想を求めようとする時、そこには必ず現実との境界線があります。
そして、その境界には必ずと言っていいほど苦難や問題が待ち受けています。
そんな境界をめぐるドラマを見せてくれるのが、国語で学ぶ物語です。
一章では『伊勢物語』を参考にして、人が境界を超えて成長していく姿と、言葉の持つ力が解説されています。
第二章「言葉で心を知る」平野多恵
自分の心を知るにはどうすればよいか?
二章では和歌を使った占いに触れながら、言葉の引き出しや解釈の幅を広げることが自分を知ることに繋がると説明されます。
和歌は想像力を働かせて解釈することが大切です。
そして占いで偶然的に出会った和歌に、意味や自分との共通点を見出そうとする働きは、自分の感性や思考を言語化する作業になります。
つまり、和歌占いをすることで、自分自身の気持ちを理解・整理することができるのです。
第三章「他者が見えると、自分も見える」山口智之
小説を理解するには人間理解が必要となります。
そして、人間理解は現代社会において不可欠な能力であると言えます。
三章では国語の授業でおなじみの『走れメロス』と『山月記』を参考に、人間理解の大切さと面白さを解き明かしていきます。
第四章「言葉で伝え合う」田中洋美
現代は「わかりやすさ」が多様化して言葉で伝えることが難しくなっています。
現代社会で求められる「わかりやすさ」の5つの観点は以下の通り。
①相手が理解できる言葉を互いに使っているか。
②情報が整理されているか。
③構成が考えられているか。
④互いの知識や理解力を知ろうとしているか。
⑤聞いたり読んだりしやすい情報になっているか。(渡部・平野・出口・田中・仲島 2021:143-144)
四章では、わかりやすく伝えるための方法を紹介しながら、心が動いた「きっかけ」を掴むことの重要性が説明されます。
第五章「言葉の地図を手にいれるーそして新たなる旅立ちへ」仲島ひとみ
五章では言語に着目して、国語とは何なのかを問い直していきます。
明治以降の方言禁止、植民地化による言語統制、ろう教育(手話禁止)の言語権問題。
国語は、ある言語が「国語」と定められることで他の言語を禁止するという、暴力的な歴史を持っています。
国語の歴史と当たり前を様々な事例で見直すことで、日本語の新たな可能性が見えてきます。
『国語をめぐる冒険』の3つのおすすめポイント
『国語をめぐる冒険』の3つのおすすめポイントは以下の通り。
①講義を受けているようで楽しい
②コラムが面白い
③次の冒険への道しるべが記されている
順に詳しく説明していきましょう。
※平澤朋子さんのカバーイラストと挿絵もおすすめポイントです!
①講義を受けているようで楽しい
「国語は冒険である」
そんな共通のテーマを扱いながらも、それぞれの作者が異なる切り口で話を進めているので、バリエーションに富んだ内容になっています。
それはまるで、1限から5限まで異なる教授から国語の講義を受けているような感覚。
国語の意義や重要性を理解するだけでなく、学ぶことの楽しさを知ることができます。
②コラムが面白い
1つの章が1講義だとするなら、間に挟まれているコラムは休み時間。
そのコラムが短いながらも非常に面白いです。
特に興味深かったのが「旧字より新字が難しい!?」というコラム。
第二次世界大戦後に整備された常用漢字は、簡略化することで元の意味が解らなくなってしまったものが多数あるという話です。
③次の冒険への道しるべが記されている
『国語をめぐる冒険』は読者を冒険させるのではなく、冒険の入り口に立たせるチュートリアル的な本だと思います。
丁寧に分かりやすく手引きされて、冒険の大切さと楽しさをお試し的に味わう。
そして、もっと遠くへ、もっと色んな所へ冒険したい人向けに道しるべとして、「深堀りしたい人へのオススメの本」が巻末に収録されています。
『国語をめぐる冒険』の感想
個人的には第一章が面白かったです。
現実と理想を隔てる境界は、ゲームや物語のように必ずしも目に見える出来事や形としては現れません。
心理的な葛藤や変化として自分自身の内側に現れることが多いと思います。
そんな時に感情を押し殺すのではなく、言葉で解き明かして輪郭を与えるという対処法は素晴らしい考え方。
「境界」を避けていた学生時代の自分に教えてあげたいです。
そして今でも、注意深く観察してみると日々の生活の中にたくさんの境界が存在していることに気づかされます。
境界線をまたがなければ、苦労したりストレスを感じることはありません。
しかし、今まで通りを離れなければ現実が変わらないのも事実です。
『伊勢物語』の男が恐怖、悲しみ、不安、心の動揺を、言葉(歌)にすることでコントロールしたように、自分も境界に向き合っていきたいと思いました。
『国語をめぐる冒険』に書かれた5つの冒険は、国語が好きだった人にはもちろん、国語が苦手だった人にもオススメできます。
国語を学ぶことの楽しさを味わえる、冒険の旅に出てみませんか?
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