今回は新潮社の『言ってはいけない 残酷すぎる真実』を読みました。
著者は前回と同じく橘玲さん。
歯に衣着せぬ物言いで、ヒトと社会の言ってはいけない真実を明かしていきます。
この社会にはきれいごとがあふれている。人間は平等で、努力は報われ、見た目は大した問題ではないーだが、それらは絵空事だ。往々にして、努力は遺伝に勝てない。知能や学歴、年収、犯罪癖も例外でなく、美人とブスの「美貌格差」は約三六〇〇万円だ。子育てや教育はほぼ徒労に終わる。進化論、遺伝学、脳科学の最新知見から、人気作家が明かす「残酷すぎる真実」。読者諸氏、口に出せない、この不愉快な現実を直視せよ。
橘玲(2016)『言ってはいけない 残酷すぎる真実』カバー袖 新潮社
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で印象に残った箇所
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で印象に残った箇所は以下の通り。
- 能力のほとんどは親ガチャで決まる!?
- 人の本性は乱婚制!?
- 子育てはほとんど子どもに影響を与えない!?
順に詳しく見ていきましょう。
①能力のほとんどは親ガチャで決まる!?
結論だけを先にいうならば、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%だ。これは、知能のちがい(頭の良し悪し)の7~8割は遺伝で説明できることを示している。(橘 2016:21)
一時、「親ガチャ」という言葉が流行ったように、見た目や能力のほとんどが遺伝の影響下にあるということは、多くの人に認知されてきています。
同時に近年の研究では、遺伝の影響の大きさが改めて示唆されているようです。
身体的な特徴、頭の良さ、性格、精神疾患や病気、果ては犯罪率まで遺伝しているのだとか…。
遺伝に対して努力の必要性を考えても、努力できるかどうかすら遺伝で決まっている、という身も蓋もない反論。
ただ、遺伝により起こりうる病気や性格上のリスクは、事前に知ることで準備、対策、覚悟ができるので朗報。
「蛙の子は蛙なのか?」という残酷な告知には、すべてが遺伝で決まっているわけではなく、20〜30%(けっこうな割合)は自分で介入することができると考えて、前向きに努力していく他ないのかもしれません。
②人の本性は乱婚制!?
霊長類のなかで、発情期にかかわらず交尾し、性行為をコミュニケーションの道具に使うのはヒトとボノボだけだ。そのボノボは、一夫一妻制のテナガザルや一夫多妻制のゴリラより進化的にはるかにヒトに近い。だとしたらなぜ、ヒトの性行動を考えるときにボノボを基準にしないのか。
そして彼らは、こう宣言する。「ヒトの本性は一夫一妻制や一夫多妻制ではなく、(ボノボと同じ)乱婚である」(橘 2016:189-190)
権力を持った人がハーレムを築こうとしたり、有名人や責任ある立場の人がスキャンダルの誘惑に抗えなかったり。
歴史を見る限り、人は隙あらば特定のパートナー以外とも関係を持ちたい生き物である、という考え方には信ぴょう性があります。
ただ、感染症のリスクを考えれば、ヒトが生物として乱婚に適していないことは紛れもない事実でしょう。
心境的には好き放題やりたいけど、生物的なリスクと倫理道徳の問題でブレーキがかかるというのがリアルな落とし所な気がします。
③子育てはほとんど子どもに影響を与えない!?
子どもが親に似ているのは遺伝子を共有しているからだ。子どもの個性や能力は、子育て(家庭環境)ではなく、子どもの遺伝子と非共有環境の相互作用によってつくられていく。そしてこの過程に、親はほとんど影響を与えることができない。(橘 2016:215)
遺伝で多くが決まってしまうという話題に関連して。
子育てがほとんど意味をなさないかもしれないことは、にわかに信じがたくもあります。
しかし、別の親元で育った一卵性双生児の調査研究の紹介は、その説を裏付けるかのようでもありました(違う親元で育っても似た性格、能力になった)。
仮にその説が正しいとして、ここでは子どもが影響を受けるのは「非共有環境」だと述べられています。
非共有環境とは、学校の友達グループやクラブ習い事のコミュニティなど、家庭以外の環境のこと。
親が子に与えられる最大の影響は「良質な非共有環境の提供」なのだそうです。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』の感想
本書で紹介されている話を信じるのなら、引用されている元の論文を読んだり、別の研究、論文、反対意見なども調べる必要があります。
自分はそこまでする気力がなかったので、あくまでエンタメ的に楽しませてもらいました。
ただ、体感、経験として腑に落ちる話も多かったので、遺伝や進化の話には俄然興味が湧きました。
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