世界一有名なクマ、プーさんが活躍する楽しいファンタジー。幼い少年クリストファー・ロビンが、美しいイギリスの森を舞台に、プーやコブタ、ウサギ、ロバのイーヨーなど、仲よしの動物たちとゆかいな冒険をくりひろげます。
A.A.ミルン(2000)『クマのプーさん』(石井桃子 訳) 裏表紙 岩波書店
今回紹介するのは岩波少年文庫から出ている『クマのプーさん』。
1926年にA.A.ミルンによって書かれ、1956年に石井桃子が翻訳、2000年に新版が発売されました。
【どんな本?】
クマのぬいぐるみのプーさんと、動物の仲間たち、少年クリストファー・ロビンの日常が描かれた10のエピソード
【こんな人にオススメ】
・忙しい日々を送っている人
・殺伐とした日々を送っている人
・淡々と日々を送っている人
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『クマのプーさん』のあらすじ、内容
テディ・ベアのプーを大切にしている少年クリストファー・ロビンが階段を降りてきました。
クリストファー・ロビンは、お父さんである「わたし」にお話をせがみます。
「じゃ、やってみようかね」
わたしは、プーと森の仲間たちがおりなす物語を話し始めました。
『クマのプーさん』で印象に残った箇所
『クマのプーさん』で印象に残った箇所は3つあります。
①詩作が得意なプーさん
②素直なプーさん
③素敵なプーさん
順に詳しく説明していきます。
①詩作が得意なプーさん
プーは、大きな石の上に腰かけると、このことをようくかんがえぬこうとしました。イーヨーのいってることは、まるでなぞみたいです。そして、プーは、とても頭がわるいので、なぞなぞは、あんまりおとくいではないのです。で、プーは、なぞをとくかわりに、カトルストン・パイという歌をうたいました。
(石井 2000: 113)
作中には詩がよく出てきます。
そのすべてはプーさんが即興で作ったオリジナル作品です。
抽象的で意味深ですが、くせになる言葉回しとなんとなく素敵な気分になれる余韻は、マザーグースに似ています。
②素直なプーさん
「ぼくは、ばかだった、だまされてた。ぼくは、とっても頭のわるいクマなんだ。」
「きみは、世界第一のクマさ。」クリストファー・ロビンが、なぐさめるようにいいました。
「そうかしら?」と、プーはすこし元気になり、それから、きゅうに元気いっぱいになると、
「ともかくも、もうかれこれ、おひるの時間だ。」と、いいました。(石井 2000: 68-69)
プーさんは裏表のない素直な性格をしています。
楽しければ喜んで、へまをすれば落ち込みますが、次の瞬間にはケロっとしています。
また、プーさんは苦しい事や辛い目にあうと「いやんなっちゃう!」という口癖が出ます。
大変な事態に陥っても悲壮感や焦燥感がないのは、プーさんがどんな時でもマイペースを崩さないからでしょう。
③素敵なプーさん
「プー、きみ、朝おきたときね、まず第一に、どんなこと、かんがえる?」
「けさのごはんは、なににしよ?ってことだな。」と、プーがいいました。「コブタ、きみは、どんなこと?」
「ぼくはね、きょうは、どんなすばらしいことがあるかな、ってことだよ。」
プーは、かんがえぶかけにうなずきました。
「つまり、おんなじことだね。」と、プーはいいました。(石井 2000: 239-240)
どちらも素敵すぎるやりとり。
こんなやりとりがふいに出てくるのがプーさんの世界です。
プーさんの名言集や、幸せのヒントみたいな本が出ているのも頷けますね。
『クマのプーさん』の感想
①挿絵がすばらしい
展示作品も紹介していくよ♪
プーさんの物語のはじまりは、クリストファー・ロビンが、プーをひきずりながら、階段をおりてくるところ。
バタン・バタン、ってプーのあたまがちょっと痛そうだよ。#プーさん #原画 #階段 pic.twitter.com/xq5Uzt17BM— クマのプーさん展 【公式】 (@wp2019jp) January 2, 2019
プーさんの挿絵を担当しているのは、E.H.シェパードさん。
線を重ねて描いたスケッチ風の挿絵は、どこか寂しげだけど温かみがあって、プーさんの世界にうまく溶け込んでいます。
1枚絵から小さな挿絵まで合わせるとかなりの量があり、『クマのプーさん』になくてはならない要素の一つとなっていることが分かります。
②合理性とは真逆の物語
プーさんの物語は、合理性や効率とは真逆にあります。
言葉の言い間違い、書き間違いは読みにくく、自然とページをめくるスピードが落ちます。
話の筋と関係ない長文があったり、単純だけど難解な詩や歌が入ったり、一つ一つの行動に無駄が多かったりします。
随所に哲学的な要素はありますが、お話自体に意味や教訓めいた押しつけがましさはありません。
ハチミツを見れば食べたくなって、食べたら食べたことを忘れてしまう。
失敗したり困難に直面したら「いやんなっちゃう!」と言って淡々と乗り越えていく。
自分の感情に素直になること、瞬間瞬間を生きること。
今を生きるプーさんたちの姿に、少しだけ羨ましさを感じました。
③世界観、キャラクター、挿絵の絶妙なバランス
森や川など豊かな自然が出てくる牧歌的な世界観。
そこで繰り広げられる個性的なキャラクターたちの何でもないやり取り。
そこに温かみがあるけど寂しげなイラストが加わることで、すべてのシーンがどうしようもなく詩的な趣を放ち始めます。
のほほんとした優しい世界に「寂しさ」が加わるのは、スパイスとして相性がいいと思いました。
シナモンのように、適度に交じることで絶妙な味わいになるのは物語も同じこと。
「寂しさ」にすべて支配されるのは嫌ですが、自分は寂しいことも好きです。
まとめ
プーさんといえば赤シャツの黄色グマ。
おそらくほとんどの人が連想するプーさんは、ディズニーによるところが大きいのではないでしょうか。
自分はディズニーのプーさんを見たことはありませんが、キャラクターとしてのイメージが完全に定着していて、逆にそれが原作を遠ざける要因になっていた気がします。
※ちなみに、ディズニーの公式チャンネルでプーさんのショートアニメを見ることができます。
原作を読むにあたって先入観が拭いきれないのは仕方ないこと。
しかし、それを補って余りあるほど、プーさんの詩的かつ牧歌的な世界観には大きな魅力がありました。
そして児童文学全般に言えることですが、事務的に読んだり、早く読んだり、読み流したりすると、作品の良さが半減してしまう恐れがあります。
よく晴れた日に近所のカフェや公園で、もしくは眠る前のベッドの中で、ゆっくりとページをめくることをおすすめします。
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