『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』を読みました。
著者は東京藝術大学大学美術館館長・教授の秋元雄史さん、発売は2018年、大和書房から。
内容/あらすじとか
美術館で「名画」を目にしたとき、その作品について、どこまで語れますか?
そして、なぜ「名画」なのかを説明できますか?「色がきれい」「名画はやっぱりいいなぁ」
あなたは名画を前に立った時、そんな感想を持っていませんか?
こうした「感性を重視した鑑賞」は、とても大切です。
ですが、同時に実にもったいない。
なぜなら、感性に頼っている限り、どれだけ多くの作品を鑑賞しても、
「西洋美術の本質」には触れられないからです。名画には「なぜ世界で評価されているのか」という理由と楽しみ方が、明確に存在します。
そして、それは作品の細かなモチーフをいくら”解読”したところで身につきません。
本書では、西洋美術に「革命」を起こした、決定的な作品23作に絞り、
それらを徹底的に読み解くことで「感性に頼らない美術鑑賞」を学べます。
この23作品の正しい見方さえわかれば、他の知らない作品の見方もガラッと変わります! !出典:Amazon
西洋美術は歴史的な背景や美術史の変遷などをおさえていなければ、正しく鑑賞することはできません。本書では西洋美術作品を真に理解するため、最低限必要な美術史の流れと各時代を代表する作品を紹介しています。
第1章ではルネッサンスからポップアートまでの歴史の流れをおおまかに紹介。
第2章、第3章では各時代を代表する作品を、歴史の観点と表現の観点から解説。
第4章では具体的な作品の鑑賞方法、美術館の使い方を紹介しています。
『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』の感想/レビュー
過去に友人と、「作品の外にある情報(作者のこと、時代背景など)を知っていないと、価値や理解が得られないのは作品としてどうなんだ」ということで議論したことがあります。作品だけで魅力を伝えられないなら作品として成立していない。本当にいい作品は予備知識等がなくてもいいと思えるものだ、というのが友人の意見でした。
自分の意見は、エンタメならそうあるべきかもしれないけど、こちらから歩み寄る姿勢がないと理解できないこともたくさんあって、まっさらな状態で見れるかだけが評価の基準になるとは思わないというものでした。
とはいえ、それはあくまで自分の感覚の話。もともとその作品が好きだったけど、作者のことを知って作品ごと嫌いになってしまった、というようなネガティブな影響を受けた人は大勢いると思います。知識を入れることで先入観となってしまい、まっさらな感性が阻害されるという意見もあるでしょう。時代的な背景や作者の裏事情など関係なしに、目の前にある作品だけを見たいという意見にも一理あるのです。
ただ西洋絵画には歴史的な文脈があって、そもそも受け手に楽しんでもらうために描かれていないものが大半。絵画を感性だけで楽しむという考え自体、明治期に印象派が入ってきたときの名残なのだそうです。
「感性のおもむくまま観る」といった鑑賞の仕方は日本特有のもので、日本美術の歴史とも深く関わっています。一般の日本人が西洋美術に触れたのは明治の文明開化以降のことでした。その頃の西洋美術は、「印象派」全盛の時代でした。印象派の作品は、理屈抜きで純粋に目の娯楽として楽しめます。(中略)多くの人は幸か不幸か、印象派の作品が西洋絵画を代表するものとしてすり込まれてしまいました。以来「アートは感じたままに観ればいい」となってしまい、本来知識や教養が必要とされるはずの西洋美術に馴染めなくなってしまったようです。
秋元雄史(2018)『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』216-217 大和書房
この感じを何にたとえればいいか迷いますが、「スポーツ観戦」がしっくりはまる気がします。たとえばルールをまったく知らないスポーツの試合を見ても、何をやっているのかわからなくて楽しむことはできません。それに対して「見たまま感じたままに楽しめばいいんだ」といわれても、無理限界があります。
ルールを知らなくても楽しめる、見ていればなんとなく理解できるスポーツもあるかもしれません。しかし、ルールを知ったほうがより楽しめるのは間違いないし、選手の情報などを知っておけばより感情移入することができます。そのスポーツを実際にやったことがある人なら、細部の技術の巧拙が理解できて、そのすごさや面白さがより理解できるでしょう。
西洋絵画の鑑賞にも、この構図がそのまま当てはまるのではないかと思いました。
つまり、受け手側にも作品を理解するための知識や勉強など、主体的な関わりを求めるのが西洋美術鑑賞なのです。スポーツのルールを知らなければそのスポーツを楽しめないように、感性どうこう以前の話として、こういう意図や背景、流れがあってこの作品が描かれたということを知らなければ、西洋美術鑑賞のスタートラインに立てないのです。
こう聞くと「なんか敷居が高そう」「覚えることが多そうで面倒」と思えてきます。が、本書はまさにそういう人向けに書かれた本。西洋美術鑑賞の土台としての最低限の知識や、鑑賞のスタンスを紹介することが目的となっています。仮に本の内容を忘れても、西洋美術の展覧会にいくときの予習として、その時代の画家や技法について調べる使い方ができそうですね。何より、「展覧会に行くまえに少しでもいいから予習する」というスタンスを得られたのが大きな収穫でした。
『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』のハイライト/印象に残った箇所
西洋美術は破壊と創造の歴史
西洋美術を学ぶ上で、絶対頭に入れておくべきテーマは「革命の歴史」ということです。一つの芸術運動が興り、それが成熟すると、まるで流れを破壊するかのような新たな芸術運動が興る……。これが西洋美術史の基本的な構造です。(中略)一方で、日本美術の根底に流れているのは「継承の歴史」です。いかに伝統や手法を引き継ぎ、次世代へ伝えていくかが求められます。(秋元 2018:18-19)
知的教養を養う鑑賞スタンス
- 目的を絞る(技法、美術史的な意義、歴史的な背景など)
- 観たことをその場で言語化する(全体のイメージを把握してから見えるものをとにかく言語化)
- 関連知識をざっくり知っておく(歴史、社会史、画家のこと)
- 倫理・自然観の差に注目する(西洋は神>人>自然、日本は自然=神)
- 抽象美術は体験が狙い(具体的なモチーフがなかったりする、わからないことだらけでいい)
知的教養を深める美術館散策
- 画集、ネットの画像を見る(スタートはここからでもよい)
- 企画展のホームページを見る(誰の作品か、どんな意図の企画かを知る)
- 「五点集中」で鑑賞する(企画の目玉、名作と呼ばれる作品を5点に絞って集中的に鑑賞)
- ギャラリートークは刺激の宝庫(学芸員や批評家の解説が聞けるので、タイミングが合えば聞いた方がよい)
- 図録は画集よりも3倍価値がある(専門家や研究者が気合を入れて採算度外視で作っている)
- 常設展は「五点集中」で鑑賞しやすいのでおすすめ
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