『漁師さんの森づくり -森は海の恋人』を読みました。
著者は畠山重篤さん、発売は2000年、講談社から。
内容/あらすじとか
森と川と海がひとつになった!
総合学習の目玉として、注目!!
著者・畠山氏の活動は小・中学校の多くの教科書に収められ天声人語などの有力紙コラムやNHK、TBS、NTVなどにも何度も取り上げられている。全国の小・中学校への講演活動、子どもたちを海に招いての「体験学習」も続けており受け入れた人数は5000人を超える。いうなれば、「森と海の親善大使」である。(Amazonより)
『漁師さんの森づくり 森は海の恋人』の感想/レビュー
牡蠣を育てるには、豊かな森が必要だった――
気仙沼で親の代から牡蠣養殖を営んでいた筆者が、豊かな森を作るために植林活動を始める話。筆者は養殖に適した汽水域が、上流の森から流れてくる栄養に支えられていることを経験則で知っていました。様々な調査でそれは確信へと変わり、仲間の漁師、林業従事者、地域住民の協力を得ながら、大きな活動になっていきます。
内容は生物、化学、地理、歴史の話が渾然一体となって語られますが、平易な文章、味のある手書きのイラスト(カナヨ・スギヤマ/絵)がたくさんあるので、読んでいて楽しかったです。実際の体験や話がベースになっているからでしょうか。活きた学問と言いますか、勉強の本当のおもしろさは、こういう地に足のついた現場感覚が教えててくれるよなぁと感じました。
「森は海を 海は森を恋いながら 悠久よりの愛紡ぎゆく」熊谷龍子
『漁師さんの森づくり 森は海の恋人』のハイライト/印象に残った箇所
人工林の悲劇
どう考えても杉には不向きな山の高いところとか、水気のすくないようなところに植えられた杉は、ヒョロヒョロしてひ弱な感じがします。おまけに手入れがゆきとどかず、とくに間伐(森林がしげりすぎるのをふせぐため、適当な間隔になるような木を伐ること)をしない杉山は悲劇的です。
そんな山は、枝と枝がぶつかり合い、光が入らない暗い山になっています。とうぜん下草がはえず、地面がむき出しになっているのです。雨がふると表面の土が流れ、川が泥水になり海に流れて昔にくらべて雨がふるとたちまち泥水が流れてくるのは、こんなところにも原因があることがわかったのです(畠山 2000:88-89)
現代の日本の山の状態は、1950年代後半から国策として打ち出された「拡大造林」の影響下にあります。戦後間もない頃、日本では雑木林が伐採され、建材として有用なスギやヒノキを植えまくられました。成長の早い針葉樹は一見、森林の回復に役立つように思えますが、正しい手入れがされなければ逆効果です。さらにその後、輸入木材への移行やエネルギー革命により国産材への需要が急落。70年代頃には活動が縮小。そうして80年代から90年代にかけて計画が見直され、実質のストップ状態となりました。(林野庁-我が国の森林整備を巡る歴史、2025年6月閲覧)
いつも薄暗く、分け入る隙間もないくらいに斜面を覆っているスギだらけの山は、過去の遺物といってもいいのかもしれません。
森と海はつながっている
大川上流の室根山の八合目には室根神社があります。このお祭りのとき、わたしたち舞根地区の漁民が、海から室根山が見えるところまで船を出し、そこの海水をくんで神社にささげ、それからお祭りがはじまることです。このお祭りは千二百年以上も前からつづけられているといいますから、すごい歴史ですね。
昔の人は、こうして、森と海とのつながりを教えていたのではないかと、わたしははっとさせられました(畠山 2000:90-91)
漁師をしていた筆者は、感覚として海と森のつながりの大切さを感じていたそうです。それはきっと大昔の漁師も、その地域に住む人たちも、科学的なことはわからなくても知っていたことなのでしょう(牡蠣の養殖は縄文時代からあったようです)。海水を山に汲んでくることの目的や由緒が神社にどのように残されているのか知りませんが、筆者の推測は遠からじな気がします。
そして豊かな森を取り戻すことを決意した筆者は、植林活動を始めます。その運動はNPO法人「森は海の恋人」になり、筆者が亡くなった現在も続いています。筆者が海を見つめ、森を見上げていたその視線は、今もなお、次の世代へと受け継がれているのです。

森から流れてくる鉄が、植物プランクトンの養分になる
森林、たとえば、ブナの林などは、毎年大量の葉がおち、つみ重なります。
この葉っぱが腐り、腐葉土になるとき、フルボ酸という物質ができるのだそうです。フルボ酸は鉄とむすびつきやすく、フルボ酸鉄というかたちになります。
フルボ酸は、鉄とすごく仲がよく、しっかりむすびつきます。こうなれば酸素と出あっても平気でそのままのかたちで、海までとどくことになります。
「これが、河口の海がゆたかであることのメカニズムです。ですから、上流にゆたかな森林があってきれいな水が流れこんでいる海は、プランクトンの量がたいてい、三十倍から、多いところでは百倍も多いのですよ。」(畠山 2000:112)
川が流れ込んでいる海には植物プランクトンが大量にいて、それを起点に多様な生態系が育まれます。河口に植物プランクトンが増える理由の一つが、エサとなる「鉄」が川から大量に流れてくるからです。鉄はそのままだと酸化しやすく、酸化した鉄は粒子が大きくなります。そうなると植物プランクトンの細胞膜を通れなくなり、成長に役立たなくなってしまいます。
しかし上流に豊かな森があると、腐葉土から生まれるフルボ酸が酸素よりも先に鉄と結びつきます。そうなると鉄は酸化せずに海まで運ばれて、植物プランクトンのエサになるのです。
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