じつは日本の建築の断熱性能は他の先進諸国と比べて著しく劣っている。夏は暑く、冬は寒い、そうした居住空間における「がまんの省エネ」は、特に高齢者にとってヒートショックなど健康面での深刻な問題にもなっている。しかし、断熱性能を改善することによって、わたしたちの暮らしは激変する。世界的なエネルギー価格高騰の中、本書では断熱性能を向上させる具体策を紹介し、そうした実践が企業や自治体の経済を好転させ、持続可能なまちづくりにつながることも実証していく。停滞する日本社会のブレークスルーを目指す画期的な一冊。
高橋真樹(2024)『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』カバー袖 集英社
『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』を読みました。
著者は高橋真樹さん、発売は2024年、集英社から。
著者のブログ:高橋さんちのKOEDO低燃費生活
内容/あらすじとか
住宅の断熱性能を高めることの重要性を説いた本。
「冬の朝、布団から出るのがしんどい」
「夏の夜、暑すぎて眠れない」
「毎月の光熱費がやばい」
住宅の断熱性能を高めることで、こういった問題はほぼ解消されます。
そして問題が解消されることで、以下のようなメリットを得ることができます。
- 部屋間の異常な温度差がなくなり様々な病気や怪我のリスクを減らせる
- 窓の結露やカビが発生しにくくなり諸々のアレルギー症状が改善される
- 冷暖房の使用が最低限になり光熱費大幅削減
- 年間を通して安定した気温と湿度を保つ快適な生活空間がもたらされる
断熱は健康、家計、住環境に変化をもたらす、まさに日本を救う切り札なのです。
しかし日本は断熱を軽視してきたゆえに、世界基準で見た時に違法建築レベルの劣悪な住宅がほとんど。
なぜそんなことになっているのか?
断熱対策をすることで何がどのくらい変わるのか?
断熱性能の高い家を選ぶときの注意事項は?
いまある家に断熱対策はできる?いくら必要?
費用を考えたら損なんじゃないの?
本書ではこういった疑問に答えつつ、断熱が個人、ひいては地域、国や世界が抱える問題を解決していくことが説明されます。
構成は全5章立てで、内容は以下のようになっています。
第1章では日本の住宅がいかに低性能か、またそれによりどんな損害被害が生じているかを説明。
第2章では断熱気密性に優れたエコハウスに対する誤解や疑問に答えつつ、実際に暮らしてみた感想やそこで得られた具体的なデータを提示。
第3章ではエコハウスの選び方とリノベーションのやり方、おすすめポイントなどを解説。
第4章では断熱が諸々の社会問題解決に繋がっていくことの説明と、具体的な事例やエピソードの紹介。
第5章では断熱が国や地域レベルのマクロ視点から見ても重要で、環境問題、エネルギー問題解決の糸口になることの主張。
『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』の感想/レビュー
衝撃的な内容でした。
居間と脱衣所の気温差でヒートショックを起こし高齢者が死亡。
そんなニュースはたびたび目にしてましたが、温暖な地域に住む自分には関係の薄い話だと思っていました。
しかし、温暖な地域では断熱が軽視されがちだからこそ、ヒートショックで亡くなる人が多いという事実。
省エネと履き違えた「我慢」がもたらす健康への悪影響の数々。
夏は暑く冬は寒く、極端な乾燥と湿度がもたらす不快感が、日々の生活のパフォーマンスをいかに落としているか。
断熱性能の高い住宅は年間を通して安全快適に過ごすために、どの地域に住む人にとっても重要であることがわかりました。
驚くような事実や偏見がひっくり返った箇所はまだまだあります。
窓のサッシがアルミか樹脂かなんて考えたこともなかったし、二重窓が必要なのは寒い地域だけだと思い込んでました。
快適な室温が提供されないことが海外では人権問題になるという話を初めて知りました。
楽しんで読みつつたくさんの衝撃も受けた強烈な読書体験。
我が家のリノベを検討しつつ、実際にエコハウスに住んでいる人の意見や情報を集めようと思いました。
『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』のハイライト/付箋/印象に残った箇所
印象に残った箇所を引用しつつ紹介。
これまでは、寒さや暑さをがまんするか、もしくは光熱費をたくさん使って適温にするか、という選択肢しかありませんでした。でも、住宅をしっかり断熱すれば、冬も夏も快適に、そして光熱費を抑えて過ごせるようになるのです。「新築だけの話でしょう?」と思うかもしれませんが、いま住んでいる住宅でも可能です(高橋 2024:4)
日本の住宅の低い断熱性能を象徴しているのが、窓です。住宅の中でもっとも熱が出入りする窓やドアなどの開口部からは、夏は74%の熱が家に侵入し、冬は50%の熱が家から出て行きます(高橋 2024:21)
都道府県別の冬季死亡率増加と、断熱された住宅の普及率には、相関関係があります。断熱された住宅が多い地域ほど、冬季死亡率が低いことがわかったのです(高橋 2024:31)
より重要なことは、家族が集まるリビングだけでなく、「家全体が18℃以上」という点です。これを「全館暖房」と呼びます。欧米や韓国などでは、人のいない部屋も暖める全館暖房が一般的で、居室によって極端な温度差が出ることはありません(高橋 2024:33)
また、住宅の断熱改修をして平均室温が上昇した住宅の居住者は、夜間頻尿(過活動膀胱)、腰痛、睡眠障害、風邪、アレルギー性鼻炎、子どもの喘息やアトピー性皮膚炎など、さまざまな健康に関する症状が改善するという報告も出されています(高橋 2024:39)
住まい手の生命や財産を守るはずの住宅が、逆にそれらを損ねてきたという事実を、国や住宅業界は大いに反省する必要があります。そして消費者も、これからはハウスメーカーの言いなりではなく、自ら住宅の性能に関心を持ち、学び、行動する、主体的な住まい手になる必要がありそうです(高橋 2024:52)
家を選ぶときは、どうしても内装や住宅設備、デザイン性など「目に見える要素」だけで決めてしまいがちですが、現在の家に暮らして感じるのは断熱気密性能や遮音性能、換気や湿気、健康といった、「目には見えない要素」がいかに大切かということでした(高橋 2024:80)
誇りを持って続けてきた自身の仕事を否定するのは、簡単なことではありません。それでも、新たな事実を知り「変わらなければいけない」と考えた人たちが、高い性能の家づくりをめざすようになりました。勇気を持って変化を求めたそうした人たちの行動もあって、断熱の大切さが、日本でもようやく注目されるようになってきたのです(高橋 2024:224)
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