星海社新書の「武器としての決断思考」を読みました。
著者の瀧本哲史さんは京大の客員准教授、投資家、経営コンサルタントなど、多方面で活動していた方。
本書では、
- 人生で直面する様々な問題に対して、自分で考えて自分で決める、意思決定の具体的な方法
が紹介されています。
本書は、私がいま、京都大学で二十歳前後の学生に教えている「意思決定の授業」を一冊に凝縮したものです。今後、カオスの時代を生きていく若い世代にいちばん必要なのは、意思決定の方法を学ぶことであり、決断力を身につけることです。もう過去のやり方は通用しないし、人生のレールみたいなものもなくなってしまいました。「答え」は誰も教えてはくれません。となれば、自分の人生は、自分で考えて、自分で決めてくしかないのです。仕事をどうするか、家庭をどうするか、人生をどうするか? この本で私と一緒に「自分で答えを出すための思考法」を学んでいきましょう。きっと、あなたの人生を変える授業になるはずです。
瀧本哲史(2011)『武器としての決断思考』カバー袖 星海社
『武器としての決断思考』で印象に残った箇所
『武器としての決断思考』で印象に残った箇所は3つあります。
- 世の中に正解はないので、いまの最善解を考える
- 情報に接したらまず疑え
- 具体的な決断の方法(ただし最後は主観)
順に説明していきましょう。
①世の中に正解はないので、いまの最善解を考える
議論を行ってものごとを決めていく。それがディベートです。
広辞苑には「互いに自分の説を述べあい、論じあうこと。意見を戦わせること」とありますが、ではなんのために議論を行うかというと、さまざまな意見を戦わせることで、より優れた答えを導き出すためです。
ガイダンスで私は「この世に正解なんてものはない」と述べましたが、その考えがディベート思考の根本にはあります。基本的に正しいことはなんだかよくわからないから、議論を通して「いまの最善解」を考えていこうよ、ということです。(瀧本 2011: 45-46)
変化の激しい時代、これまでの価値観、方法は通用しなくなっています。
そこで筆者は「答え」ではなく「答えを出す方法」。
つまり自分に必要なものを考え、探し選び取る行為がベーシックなものにならなければいけないと考えました。
その際に役立ったのが、弁論部時代に培ったディベート思考だったそうです。
ディベートでは、議題に対して賛成反対両方の意見を準備をする必要があります。
そして両論のメリット、デメリットを照らしながら最善解を探っていくので、好き嫌い、得手不得手を排した、客観的な結論に近づくことができます。
蓄えた知識を判断に、判断を行動につなげていくことが、これからの時代を生きるうえで大切な考え方なのです。
外山滋比古さんが話しているグライダー人間に通じてくる考え方ですね。
②情報に接したらまず疑え
大学受験までの勉強というのは、先生が言っていることや教科書に書かれていることを疑わず、そのまま暗記して、テストで再現できれば勝ちというものでした。
でも、それをずっと続けていてはダメです。
大学以降の人生では、情報に接したら、それが本当かどうかをまず疑ってください。「本にこう書いてあるけれど、偉い人がああ言っているけれど、それは本当なのか?」と考えることを習慣にしなければなりません。(瀧本 2011: 213)
意思決定(決断)の準備として情報収集する際、接した情報の信ぴょう性を吟味するべきだと筆者は言います。
情報をまず疑うというスタンスが身につけば、意思決定の場だけでなく、世の中にあふれる詭弁、本当に見えるウソ、根拠のないデマに踊らされることもなくなります。
ディベート思考をマスターするのは簡単ではありませんが、基本スタンスとして、「まず疑う」ことは簡単にできそうです。
それは接した情報だけでなく、自分の意見や考えに対してもです。
③具体的な決断の方法(ただし最後は主観)
「なんだよ。結局、最後は主観で判断するのか」「主観で判断するなんて、ぜんぜん論理的じゃない」と思われるかもしれませんが、そもそも100%客観的で論理的な判断など、人間にはできるはずがありません。
ディベート思考とは、客観を経て、主観で決断する方法です。
最初から主観的にものごとを決めるのではなく、一度、客観的に考えてみてから、最後は主観をもって決める。
そう、最後の最後は、みなさんが自分の頭で考えなければならないのです。(瀧本 2011: 237)
筆者が紹介したディベート思考を大雑把にまとめると、以下のようになります。
- 判断決断のためのテーマを決める(○○すべきか否か?)
- 賛成・反対の主張(メリットデメリット)を出す
- それぞれの主張に反論する
- 「いまの最善解」を出す
一連の流れを1人で行うことで、客観を通した結論が見えてくるようになっています。
しかし、どのメリットデメリットを重要視するかは、個人の価値観や哲学によります。
客観的な正解がないからこそ、最後は主観で決断するしかないんですね。
しかし、その主観はあえて反対の意見を考えたり、情報を集めて比較を通した主観。
そのプロセスが、「答え」でなく「答えを出す方法」なのです。
『武器としての決断思考』の感想
1983年に書かれた『思考の整理学』の中で、筆者の外山滋比古さんは、言われたことだけこなす受け身な「グライダー人間」よりも、自分の頭で考えられる「飛行機型人間」が必要になると述べていました。
『武器としての決断思考』は、そんな外山さんが80年代に提起した問題に対するアンサーになっています。
流されるだけのグライダー人間に対して、決断思考(ディベート思考)という具体的な武器を提示しているのです。
決断思考は、他者との会話のような瞬発力を求められる状況で使うには、慣れと訓練が必要。
ただ、じっくり腰を据えて準備できる場合や、一人で意思決定するときには、最初から力を発揮してくれる強力な武器になるのではないでしょうか。
まず疑ってみる、反対の意見を考える、多くの視点から見るなど、日常生活に簡単に取り入れられる考え方でもあるので、スマホのメモなどに書いて身につけていきたいと思いました。
名著。
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